<ファクトチェック>石破首相、国会で「現金給付検討してない」発言の真意は?

2025/07/13 05:00 

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 自民党が物価高対策で参院選公約に明記した、全国民を対象とした2万~4万円の給付策。石破茂首相が公約に盛り込むと表明した2日前、国会であった党首討論では給付について「検討していない」と答弁しており、SNS上で「うそつき」などと批判を浴びた。「検討していない」は本当だったのか――。

 6月11日の党首討論。立憲民主党の野田佳彦代表は「自民党・公明党は給付金を公約に掲げるそうだが、バラマキではないか」と質問した。これに対し、石破氏が「政府といたしまして、給付金について現在検討しておるという事実はございません」と答えると、場内から「えー」とどよめきが起きた。

 自民党の森山裕、公明党の西田実仁両幹事長はこの前日の10日に東京都内で会談し、物価高対策として現金などを給付する方針で一致していた。自民党がこの時点で給付金について検討しているのは明らかで、党総裁の石破氏も報告を受けていると考えるのが自然だった。

 この日の党首討論では国民民主党の玉木雄一郎代表も重ねて給付金公約について質問。石破氏は「与党から提案があった時に、政府として真剣な議論をしながら、バラマキにならないように、高所得者優遇にならないように、財政健全化に資するような形で政策が形成される」と、改めて政府の立場で答えた。

 そして石破氏は党首討論のわずか2日後、6月13日昼に自民党本部で森山氏や小野寺五典政調会長らと会談し、党総裁として現金給付を公約に盛り込むよう指示した。さらに夕方には首相官邸で記者団の取材に応じ、全国民への一律2万円の給付を公約に盛り込むと正式表明した。

 党首討論で「政府として検討していない」としていた石破氏。首相であると同時に自民党総裁でもあり、これは「自民党としては検討しているが、政府としてはその限りではない」という、政府と党を使い分けた発言だったとみられる。

 石破氏の地元、鳥取県の知事や総務相を務めた片山善博・大正大特任教授は「厳密にいえば、うそをついているわけではないと思うが、国民にとっては、同じ人間がある時は首相の顔をして、ある時は総裁の顔をして使い分けるのは、なかなか納得しづらいかもしれない。ただ公明党との連立政権でもあり、やむを得ない面もある」と話す。

 現金給付は今春にも検討されたが、バラマキ批判があり見送られた経緯がある。「今回のケースで、石破さんは給付をやりたくなかったんだと思う。ただ給付を求める公明党の影響力が強く、与党に押し切られたという図式だったのではないか」

 そして「自分が首相である政府として、給付を主体的に考えたことはないというのは、石破さんの本音だと思う。『政府として』という言葉には、不本意ながらというニュアンスが含まれていると思う」と理解を示した。

 一方で、石破氏が与党の公約について質問されたにもかかわらず、政府の立場で答えたことについて、片山氏は「『与党でいろいろやっているようだが、政府としては検討していない』と付け加えたらよかったのではないか」と指摘した。

 そして党首討論のあり方についても「本当は党首対党首の政治家どうしの論戦にすべきだが、予算委員会と同じような政府対野党の構図になっている。それが今回のような誤解を生む背景でもある」と指摘した。

 また石破氏が現金給付の方針を首相官邸で公表したことについても、「党の公約の話だから、本当は党本部で公表したほうが、けじめが付いていい。政府がやることは官邸でやったらいい」と注文を付けた。

 石破氏がうそをついたとまでは言えないが、まるで自民党が給付を検討していないかのような誤解を生みかねない発言ではあった。今回の混乱には、首相と党総裁の演じ分けの難しさも影響しているようだ。【影山哲也】

毎日新聞

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