原料高騰で…駄菓子の定番「糸引きあめ」、唯一のメーカーが廃業
あめの中から出ている糸を束ねて、くじのように引くことができる「糸引きあめ」の製造が、5月末で終了した。国内唯一のメーカーだった耕生製菓(愛知県豊橋市)が、原料の高騰や工場の老朽化などで廃業したためだ。夫の津野耕一郎社長(72)と一緒に会社を切り盛りしていた三恵子さん(69)は「長年心を込めて製造していたので、少し残念なのと寂しさを感じています。多くのねぎらいの言葉やお手紙をいただき、感謝しております」と話す。
製造終了した5月末に、耕生製菓をたずねた。豊橋駅からほど近く、大通りから少し入った場所に、耕生製菓はあった。工場は築70年以上。「古いので写さないでくださいね」と、三恵子さんは少し恥ずかしそうに笑う。三恵子さんの写真もNGだったが、立ち居振る舞いが若々しく、長年会社を支えてきただけあって、芯の強さを感じた。
糸引きあめは、かつては駄菓子屋の定番商品だった。1回10円程度で糸を引き、先についているあめをもらう仕組み。あめの大きさは数種類あり、大きなものが「当たり」になる。駄菓子屋の前では、最近でも口の端から糸を垂らしてあめを食べる子どもを見かけた。しかし、製造に手間がかかることなどから他のメーカーが相次いで製造を中止。耕生製菓のみが続けていたが、駄菓子屋の減少に加え、原材料の高騰が経営を圧迫した。工場の老朽化や津野社長の体調不良も重なり、廃業を決断した。
耕生製菓は戦後間もなく創業し、たん切りあめなどを製造していた。「当時は、近所の人が缶を持ってあめを買いに来たと聞いています」と三恵子さん。糸引きあめの製造を始めたのは1950年代半ばで、当時は糸引きあめを作るメーカーが、近所だけでも4軒ほどあった。耕生製菓の出荷量が一番多かったのは80年代中ごろ。かつては十数人の従業員がおり、住み込みで働く人もいたという。
最近では、津野社長と三恵子さんを含め、6人で製造していた。製造工程は、ほとんどが手作業だ。砂糖をくぼませた型に、砂糖や水あめを溶かしたあめの原料を一つ一つ流し入れ、固まる前に糸を差し込んでいく。糸がついたあめを30個束ねて輪ゴムで結び、袋詰めする。あめの袋を箱に詰め、ひもをかけて出荷する。製品は「フルーツ引」「シャンペンサイダー」「コーラ糸引」の3種類。1番人気は、箱にレトロな絵柄のイチゴが描かれ、あめがカラフルな「フルーツ引」で、他の2種類の10倍以上出荷していた。
事業継承の打診もあったが、いずれも断った。「引き継ぎたいと言っていただくのはありがたいですけど、よそで作るのは難しいと思います」と三恵子さんは明かす。ここ数年は、ほとんど利益がでない状態。原料や包装資材があまりに急激に高騰したため、適正価格への値上げや、販売方法の変更について検討することすらできなかったという。
糸引きあめがなくなることについて、駄菓子屋研究家の土橋真さんは「駄菓子業界は、比較的体力のあるメーカーと中小零細の二極化している。経営者の体調不良や機械の故障などで中小零細は潮時と考えるケースが多い。仕方が無いですが……」と残念がる。耕生製菓は、工場解体や書類整理などを進めている。「今はバタバタしていますが、すべて終われば、もっと寂しくなるんですかね」。寂しげな、でも少しさっぱりした三恵子さんの表情が印象に残った。【水津聡子】
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