半導体「ラピダス特需」が地域に落とす影 生活困窮者や学生を直撃
「生活保護受給者の住まいが全く見つからないんです」
北海道千歳市内の生活困窮者や障害者らの支援に携わる公的機関の女性相談員(53)は表情を曇らせた。
先端半導体の国産化を目指すラピダス(東京)の進出を受け、空前の“ラピダス特需”に沸く千歳市。
だが、右肩上がりの地価上昇は家賃の高騰などをもたらし、市民生活にも影響を与え始めている。
◇「格差広がっている」とため息
80代の母親とともに市内西部に住んでいた50代の男性は、母親の施設入所を機に自宅を処分することになった。
精神疾患があり、仕事をしていない男性は、生活保護の受給が決まった。だが、住居の手配ができていない。賃貸物件の家賃が軒並み上がっているためだ。
単身の生活保護受給者の住宅扶助は、上限3万円。不動産業者に相談すると「(それに見合う物件は)新卒の社会人や学生が先に押さえてしまっている」とのことだった。
男性は現在入院中で、退院後は住み慣れた千歳を離れることも視野に入れている。
市内では、定職に就けずに高齢の親と暮らす独身者が1000人ほどと推計される。同様の問題は今後も起きかねない。
女性相談員は「街が潤っているように見えるかもしれないが、逆に困窮する人との格差が広がっているような気がする」とため息をついた。
◇不動産業者「過去にない勢い」
千歳市内では現在、マンションなどの建設が相次いでいる。ラピダスの工場建設により、その従業員や関連企業の社員らの入居を当て込んだものだ。
市内では2023年の進出発表を受けて地価が急騰した。24年3月は住宅地で前年の12・2%増、商業地で24・8%増。25年3月には住宅地でさらに6%、商業地は37・8%の増となった。
市内の不動産会社の担当者は「過去になかった勢い。千歳に不動産バブルが訪れている」と語るが、思わぬ余波は生活困窮者以外にも広がる。
◇大学は「移転を考えるかも」
JR千歳駅から南西に約8キロ離れた住宅地にある千歳リハビリテーション大学(同市里美2)。
理学療法士、作業療法士を目指す学生408人が在籍し、約8割は市内中心部から大学が運行する循環バスで通っている。
今春、大学が実施した調査によると、学生たちが支払う家賃の月額平均は、昨年の約4万5000円から約6万円と大幅に上昇した。
不動産会社によると、従来の家賃の値上げは5~10%が相場だったが、ラピダスの事業が追い風となってオーナーが強気な上げ方をしている可能性があるという。
伊藤俊一学長(65)は「この1~2年で急に上がった印象。親も仕送りを簡単に増額できないだろうし、アルバイトを増やしているのでは」と気にかける。
学生の生活をどう守るか。
市は、市内3地区の市営住宅のうち9戸を、同大と千歳科学技術大、日本航空大学校北海道の学生向けに1万~2万円の低家賃で提供する方針を固めた。
このうち千歳リハビリテーション大に近いのは向陽台の3戸。伊藤学長は「一歩前進した」と感謝するが、複雑な思いも明かした。
「住環境が整わないと学生集めに影響する。この状況が長引き、もし、どこかの自治体が『うちでやらないか』と声をかけてくれたら、移転を考えるかも」
国を挙げた取り組みは地域に特需をもたらすと同時に、暗い影も落としている。【平山公崇】
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