維新の議員定数削減は「美名」 識者に聞く 「身を切る改革」の実態

2025/11/05 17:45 

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 日本維新の会は国会議員の定数削減を自民党との連立の「絶対条件」に押し出した。しかし、専門家は「美名」と指摘する。母体の大阪維新の会が大阪で進めた改革では「ひずみ」も生じているからだ。「身を切る改革」で切られたものとは?

 大阪府議会の定数削減を話し合う協議会に、維新など複数会派が参考人として招いた拓殖大の河村和徳教授(政治学)に話を聞いた。

 ◇府議会での「改革」実態は?

 ――維新は議員定数削減など「身を切る改革」を掲げて支持を集めてきた。大阪維新ができた2010年当時、府議会の定数は112だったが、翌11年の府議選で維新が過半数の議席を得て以降、条例改正を重ね、現状は79まで減った。

 ◆元々の定数が多かったのは事実だが、全体像を考える必要がある。議会は多様な意見を持つ国民や住民の縮図を作ることが前提だ。府議会では定数を減らすことが目的化し、定数1の「1人区」が増えた結果、弊害も生まれている。国政での定数削減を進める前に、大阪で実践してきた改革の結果を検証すべきだ。

 ――府議会では25年10月時点で全53選挙区のうち36選挙区が定数1の「1人区」で、68%を占めている。1人区が増えると、どうなるのか。

 ◆府議会の1人区の割合は全国と比べても高い。維新が主張する国会議員定数の1割削減もそうだが、何人がふさわしいのかという下限の議論がないまま減らしてきてしまった。1人区が増えると、落選候補に投じられる「死票」の形で、切り捨てられる民意が多くなる。行政の効率化は「安ければいい」と評価されやすいが、定数を減らせば減らすほど民主主義から遠くなり、エリート主義になっていく。

 ――前提とすべき民意の縮図という議会の姿から離れつつある。

 ◆大阪都構想を考えてみるとわかりやすい。なぜ、議会の多数派が賛成していることが、住民投票で否決されるのか。議会は選挙結果を議席という形に変換しているので、デフォルメされている可能性がある。当然、本来の民意とは差が生じる。

 ◇国会議員の定数削減どうなる

 ――国会議員の定数削減は衆院の比例代表が念頭にある。

 ◆維新は主に小選挙区で勝ってきているので、比例代表を減らしてもダメージは少ない。府議会では政治家の身を切ったかもしれないが、維新が身を切ったわけではない。「党利党略」と非難されうるところを、議員定数削減という「美名」で(覆い隠して連立に)合意してしまった。

 地方は都市部以上に影響を受けるが、その視点で議論がされていないのも問題だ。吉村(洋文)代表は結局、大阪の代表であって、全国民の代表ではない。意気込みを見せるだけの「身を切る改革」ではいつか限界を迎える。その副作用、切り捨てられる民意への配慮が必要だ。

 ――議員定数のあり方をどう考えていくべきか。

 ◆「理念なき引き算」から、何人必要なのかという積み上げ方式の議論へ変わらないといけない。切り捨てられた民意を拾うには、政策対話の形で当事者の代表を議会に招いて意見を聞く方法もある。また、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、オンラインの活用など、届きにくい声をデジタルで拾う気付きもあった。府議会はその先駆者だった。そうした経験を踏まえた提案もなされるべきだろう。【聞き手・長沼辰哉】

毎日新聞

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