フードバンクの倉庫から消えた米 価格高騰で「緊急事態宣言」も

2025/03/29 05:30 

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 米価格の高騰が続く中、生活困窮者に食料を支援するフードバンクの草分け的存在として知られる東京都内の団体でも倉庫の米が尽き、SOSを発している。25年にわたり活動を続け、リーマン・ショックなどの経済危機に見舞われた時期も生活困窮者を支えてきたが、米の高騰に加え、購入先も見つからないというダブルパンチに援助を求めている。

 ◇米4トン収納の倉庫が……

 「お米がない!緊急事態宣言」。一般社団法人「あじいる」(東京都荒川区・今川篤子代表)は3月上旬、食料を提供してきた生活困窮者の支援団体に窮状を伝えるメッセージを発信した。2000年に全国に先駆けてフードバンク事業を始めて以来の危機だという。27日に事務所を訪ねると、4月上旬には支援団体から約1トンの米が求められているのに、4トン収納できる倉庫には20キロ入りの米袋が三つあるだけだった。

 あじいるは、野宿者やシングルマザー、DV(家庭内暴力)被害者、高齢者、外国人などの支援団体に米やレトルト食品、缶詰といった食品や衣料品を配布している。各団体に配る米は毎月約1トンで年間約12トンにもなる。

 ◇「異常事態だ」頭抱えるスタッフ

 米や食品は市民からの寄付のほか、農家から前年の余った米を譲り受けてきた。また、田んぼを借りて米作りにも取り組み、年に1・2トンの米を自前で確保してきた。ここ数年は農家からの寄付が減少しており、足りない分はカンパを集めて米を買ってきた。だが、昨年以降、市民からの寄付も激減し、年明けには倉庫から米が消えた。例年、不足分は購入してまかなってきたが、今年はどのルートをたどっても入手できないという。あじいるのスタッフ、中村光男さんは「異常事態だ。これまで協力してくれた市民は米の値段が倍になったことで寄付ができず、農家は在庫のない状況なのだろう。生活困窮者をどう救うか頭を抱えている」と話す。

 ◇フードバンクにも「備蓄米支援を」

 フードバンクは00年前後に急増した野宿者への炊き出しによる食料支援を、都内各所で安定して続けるために設立したのが出発点で、今では多様な生活困窮者を食料面で支えている。あじいるが支援団体に影響を聞いたところ、「米の代わりにうどんやインスタント麺で代用している」(高齢者の支援団体)▽「毎月100軒に4キロずつ配っていた米を3キロに減らした」(生活困窮者の支援団体)▽「米の寄付がなくなれば弁当配布の活動は中止せざるを得ない」(困窮者の支援団体)などと厳しい状況を訴える声が多数寄せられたという。

 毎月、米を受け取ってきた30代のシングルマザーは小学生2人を育てている。もらえる米は半分の2キロに減った。「それでもありがたい。お米を使うメニューを減らし、うどんやすいとんなどでしのいでいる。レトルト食品ももらっているが、それをかけるご飯がないのがつらい」とため息をついた。中村さんは「フードバンクの食料が命の綱になっている人は多い。命を支えるため、備蓄米をフードバンクに直接支援することを政府は本気で考えてほしい。市民にも広く応援をお願いしたい」と話している。

 米の寄付やカンパの問い合わせは「あじいる」(03・5850・4863)へ。【東海林智】

毎日新聞

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