「昨日叔父がきたので家が大へんにぎやかであった。『いつもこんなだったら、いいなあ』と思ふ」。女学生が毎日欠かさず書いていた日記は８月５日で途切れた。

　広島への原爆投下によって、１３歳で犠牲になった森脇瑶子さんの日記や着物の帯など遺品約４０点が９日、広島市中区の原爆資料館に寄贈された。被爆８０年となるのを機に寄贈を決めた瑶子さんのおいで家族伝承者の細川洋さん（６６）は「未来へバトンを渡すいい機会だ。人類共通の財産になってほしい」と話した。

　１９４５年８月６日、県立広島第一高等女学校（現・広島皆実高）の１年生だった瑶子さんは、爆心地から約７００メートルで建物疎開の作業中に被爆し、亡くなった。

　日記はその年の４月６日の入学式から始まり「日本の女學生として、はづかしくないように日々の生活に心掛け一生懸命にがんばろうと思ふ」と未来に向けた思いがつづられている。

　細川さんによると、瑶子さんの私物は宮島の自宅にあったため、多く残った。瑶子さんの両親は戦後、形見として大切に保管した。特に日記は仏壇の引き出しにしまわれ、時折取り出して涙していたという。

　瑶子さんの兄である細川さんの父、浩史さん（２０２３年に９５歳で死去）は１９９６年、日記を「広島第一県女一年六組　森脇瑶子の日記」として出版した。自身も被爆者である浩史さんは、自らの体験や瑶子さんとの思い出を語り継いでいた。

　浩史さんは生前、「わしが亡くなったら、日記も一緒に棺おけに入れて燃やしてほしい」とよく口にしていた。しかし、亡くなる数カ月前に、細川さんが遺品の寄贈を提案したところ、浩史さんは「瑶子も喜ぶじゃろう」と語ったという。

　今月７日の瑶子さんの誕生日、細川さんは廿日市市内にある瑶子さんの墓前で寄贈を報告した。「『いいよ』と後押ししてもらえた気がする」と振り返る。

　原爆資料館は今後、寄贈された遺品の展示を検討するという。石田芳文館長は「原爆が少女の人生や夢、希望を奪うことを知ってほしい」と話し、細川さんは「誰にでもあったささやかな日常が、原爆でスパッと切られた無念さを感じ取ってほしい」と訴えた。【安徳祐】