北九州市・門司港舞台の漫画 加害と葛藤、戦争を「自分ごと」に
九州の玄関口・北九州市の門司港はかつて、旧日本軍の兵士が関門海峡から大陸などへ出征する拠点だった。記念碑も残るこの場所を舞台に今、戦禍の記憶をテーマに連載漫画が製作されている。戦争の被害だけでなく、登場人物を通して加害の側面や苦悩にも向きあったこの作品。作者の狙いとは。
「生きとし生ける」(ヒーローズコミックス)は、戦後復員した祖父の書き残した手帳に導かれて門司港を訪れた小説家が主人公。門司で活動する男性地下アイドルとの出会いを機に、アイドルは高祖父と戦争の関わりに関心を持ち、小説家もまた門司港にまつわる物語の執筆を決意していく。
作者は、2021年春に漫画家としてデビューした長谷川未来さん。父で児童文学研究や評論に携わった長谷川潮(うしお)さん=22年9月に85歳で死去=が戦争児童文学に関する著作を多数手掛けたこともあり、自宅には戦争を題材にした児童文学があふれていた。長谷川さんは「親から読めと言われた記憶はないが、幼いころから戦争を描いた児童書を手にしていた」と振り返る。
門司港にゆかりはなく、旅行で初めて訪れた。海峡を望む場所に建っているのが、元兵士らが建立した「出征の碑」。碑文によると、第二次世界大戦中にここから200万人超が南方や大陸の戦地に出征し、半数の100万人は生きて帰ることができなかったという。
古くから国際航路として栄えた関門海峡の光景、「出征の地」としてさまざまな人と思いが交錯した土地の歴史、建物や街に宿る昭和のたたずまい――。門司港で長谷川さんの創作アイデアは膨らんでいった。
1カ月半に1回のペースで、製作拠点の東京から北九州市を訪れ、市内に点在する戦跡や慰霊碑を取材。23年夏からWEBコミックサイト「コミプレ」で連載を開始した。
物語は戦中、戦後、現代がオーバーラップして進む。登場人物はフィクションだが、時代背景や出来事は史実に基づき、1944年6月に米軍のB29爆撃機による本土初空襲で現在の北九州市内が被害を受けた様子、敗戦直後に子どもを抱えた女性や傷痍(しょうい)軍人らであふれた門司港駅前のシーンなどを描いている。
一方、元軍人に刻まれた加害の記憶と後悔の念にも目を向けた。「俺はなぜ生きているのか」「ごめんなさい、ごめんなさい」。作中で、主人公の祖父の手帳には戦地で人をあやめたことをうかがわせる内容がつづられ、主人公はそれを手がかりにある人物に行き着く展開となっている。
この狙いを、長谷川さんは「多くの人は『戦争=被害者』という視点で連想しがちだが、望んでそうなったわけではない加害者もいる。そんな人の葛藤を取り上げてみたかった」と語る。
時代が下って、男性アイドルと主人公が交流する現代の場面では、新型コロナウイルス禍に直面して孤立したアイドルの姿を描いた。「戦争もコロナ禍も、その前と後で世の中の価値観が大きく変わったという点で似かよっているように思う」と長谷川さん。過去と現代が地続きであることを読者に感じさせる仕掛けの一つだ。
連載はこれまでに単行本で3巻まで刊行された。舞台の北九州市を訪ね歩くファンもいるといい、長谷川さんは「北九州や戦争の時代のことを少しずつ学びながら描いているので、一緒に作品を読み進めてくれる読者には感謝しかない」と語る。
戦後80年の今年、物語は佳境を迎えようとしている。現実の世界では、戦争や紛争が各地で続く。「戦争は切り離された過去の出来事ではない。作品が戦争を人ごとではなく『自分ごと』と捉えるきっかけになり、読み終えた時に現実の世界にも目を向けてもらえたら」【橋本勝利】
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