「名前だけは貴方が…」 まだ見ぬ子へ、日記に残された亡き両親の愛
「名前だけは貴方(あなた)がつけて行って下さいね」。約80年前に書かれた母の日記には、男子「俊昭」、女子「美智子」とあった。「自分の名前は父が決めてくれた名前なんだ」。池本俊昭さん(80)が、記憶にはない両親の愛情を感じることができたのは、戦時中に残した母の日記からだった。【宮本麻由】
1944年10月、兵庫県姫路市で誕生した池本さん。京都地裁の裁判官だった父の俊雄さんは、池本さんが生まれる19日前に妻の紀美さんを残して出征。沖縄守備隊として創設された第32軍司令部に配属され、45年6月に戦死した。31歳だった。
病院勤めの母は、夫への思いを日記に書きつづっていたが、45年12月9日に24歳で病死した。
池本さんは母方の祖父母に引き取られ、横浜市港北区で育った。祖母から、母は「真面目で努力家だった」と聞くが、イメージできなかった。
中学に上がった頃、「そろそろ戦争のこと、両親のことを知っておいた方が良い」と祖父から母の形見の日記を渡された。「祖父母を本当の父母のように思っていたし、日記を読んでもどこか遠い物語のように感じた」。それでも「文章や字の感じから、真面目な母の様子が自分に似ている、とは感じた」
しっかりと日記に向き合ったのは法政大に進学してからだ。大学の近くの靖国神社が学生のたまり場だった。日記の存在を思い出し、読み直すと、父の出征前後に書かれた内容が印象的だった。
「泣いてはいけないのだけれど…泣くだけ泣かして下さい。やはり私は悲しいのです。可愛い子供のせめて生まれてからと思っていたのに…悲しいの、人生って楽しみばかりないのね」
出征前の宴会に出ている夫を待つ母。「お腹(なか)の子供が今日に限ってとても動いています。きっと早く顔がみたいのでせうね。名前だけは貴方がつけて行って下さいね」
午後11時半に帰宅した父。「お前の顔を見ると泣きたくなるといってポロポロ何時迄(いつまで)も泣いて下さいましたのね」
「別れる時は月夜でした。貴方の手は細く白くつめたかった」
別れ際の描写を鮮明に思い起こさせるような母の日記。「母はつらかっただろうな。それでも帰って来るという期待感も感じた」
「別れるのはいやです。けれども今では運命とあきらめています。元気な貴方の子供、かしこい貴方の子供を立派に育てる事が私の最大の務め、貴方へつくす道と思います」
読んだ瞬間に涙が止まらなかった。日記には、両親が愛し合っていたことはもちろん、生まれてくる子供に対しての思いが詰まっていた。「私は両親から愛されていたんだ」そう気づいた瞬間だった。
職場で出会った妻は、母の日記を隅々まで読んだ。「両親がくれた愛情を妻は理解してくれて、自分にも同じ愛情を与えてくれている」
戦後80年を経た今、両親に伝えたい。「子供も孫も立派に育っている。2人が与えてくれた愛を、次の世代にしっかりとつないでいきますね」。日記はバトンのように、今後も家族の間で大切に引き継いでいくつもりだ。
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