「死にたくねえなあ」と漏らし出撃した友 98歳元特攻兵が今語る理由
旧陸軍の特攻隊員で、戦争体験を語り続ける佐賀市の鳥谷(とりや)邦武さん(98)。「死にたくない」と本音を漏らして出撃し戦死した友の姿が今も脳裏に浮かび「本当のことを後世に伝えたい」との思いが背中を押す。ただ、人前で語り始めたのが90歳前後と年月を要したのは、特攻で出撃経験のある飛行学校の同期生が80代で亡くなるまで、そうした「裏の話」を口にすることは、特攻に命をささげて「神様」となった人たちに「失礼だ」と許さなかったからだ。【谷由美子】
鳥谷さんは戦後80年を迎える2025年4月、福岡県筑前町の大刀洗平和記念館で約120人の聴講者を前に、16歳で大刀洗陸軍飛行学校に入校して少年飛行兵となり、1945年春に満州(現中国東北部)で特攻隊「第453振武(しんぶ)隊」編入を命じられたこと、出撃命令を待つ間に終戦を迎え、その後シベリアに1年7カ月間抑留されたことなどを語った。
特攻隊編入は志願ではなく「命令だから、いやも応もない。諦めるしかなかった」。仲が良かった飛行学校の同期生は、45年5月に特攻隊での出撃を命じられると「死にたくねえなあ」と繰り返した。命がけの戦闘機の訓練に耐えてきたのは、敵機との空中戦で成果を上げるため。「一発勝負で成功するかしないか分からず、抱えたくもない爆弾を抱えていくなんて、ばからしい。もったいなあ」と互いに本音で話す仲だった。その友は出撃後、沖縄周辺で戦死した。
◇同期生と意見の相違も
鳥谷さんの自宅を後日訪ね、長年体験を語らなかった理由を尋ねた。すると、同じ佐賀県出身の飛行学校同期生との意見の相違を挙げた。同期生は特攻隊員として知覧飛行場(鹿児島県)から2度出撃し、機体大破や不時着で2度とも同県内の島で命を取り留めた。
皆が皆、志願し喜んで命をささげたわけではなく「本当のこと」を後世に残したいという鳥谷さんに対し、その同期生は「間違いだ」と断じた。「今さらほじくり出して話したり書いたりするのは、特攻に出た人間に対して、この上なく失礼だ」と続け、度々口論になった。ただ、特攻で生き残った者のつらさも考えると、一度も出撃経験のない鳥谷さんは「偉そうなことは言えない」と、彼の存命中は話せないと思っていたという。
◇遺書にも書けなかった本音
「特攻には表もあれば裏もある」と鳥谷さん。国を守る勇ましい決意がつづられている特攻隊員の遺書を見る度、その多くは「建前」だと思う。自身、白紙の遺書を爪と髪と共に両親に送ったのは軍の検閲が頭にあったからだ。「特攻で死ぬのは嫌。生き延びたい」などと本音を書けるはずがなかった。戦後、特攻作戦の実態と無謀さが明らかになるにつれ、仲間の顔が浮かび、無念さを思う。
戦後80年。今なお戦火を交える国々がある。鳥谷さんは「戦争は無残な死に方をしなければならない。敵も味方も親兄弟がいて、恨みごとは何もないのに殺さないといけない。上に立つ人間がどれだけ責任があるかを自覚してほしい」と訴える。
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