返還された若き特攻兵の遺品 偶然重なり米国から群馬の遺族へ
終戦から半世紀たって米国から返還された神風特別攻撃隊(特攻隊)の隊員の遺品が、群馬県高崎市の遺族のもとで大切に保管されている。早稲田大の学生だった小川清さんのものだ。機体ごと米国の空母に突撃したのに、時計などが燃えずに残った。清さんの長兄の孫、陽子さん(66)は「みなさんのご尽力があって、偶然が重なって奇跡的に戻ってきた。これには清の魂がこもっているんです」と言う。【福田智沙】
遺品は特注の桐箱に収められていた。裏蓋(ぶた)のない懐中時計、パラシュートのバックル、「川少尉」と書かれた布きれ、友人がささげた短歌が記された血のついた紙切れ2枚、そして数枚の写真――。懐中時計は衝突の衝撃で胸にめりこみ、その裏蓋は、体からはがれなかったとされる。
◇「敵空母見ユ」22歳の戦死
清さんは1922(大正11)年、江戸時代から続く小料理屋を営む家に、5人きょうだいの末っ子として生まれた。旧制高崎中(現高崎高)、早稲田第二高等学院を経て、早稲田大政経学部に進んだ。世の中を良くしたい、国政に関わりたいとの思いがあったそうだ。
43年、戦況の悪化に伴い、清さんも学徒出陣した。谷田部海軍航空隊(茨城県)で訓練を受け、45年5月11日早朝、鹿屋基地(鹿児島県)から「第七昭和隊」の一員として出撃。沖縄の海で目標米軍空母「バンカーヒル」を発見して「敵空母見ユ」と打電し、突っ込んだ。22歳の戦死だった。
陽子さんは中学時代、清さんの母である曽祖母としたやりとりを、はっきり覚えている。遺影を指して、誰かを問うと「私の息子」と答え、こう告げられた。「『頼むから清、戦争には行かないでくれ』と泣いてすがった」
時がたち、2000年末、家族の元に一通の手紙が届く。米国在住の日本人からだった。バンカーヒルに乗っていた米兵の孫が清さんの遺品を発見し、遺族に返還したいとの内容だった。
布きれや短歌、当時の記録などから清さんの遺品と特定。思わぬ知らせだったが、陽子さんは「無我夢中でした。大叔父の遺品が見つかったということで、いただきに行かなければという気持ちでした」と振り返る。翌年3月に母の幸子さん(93)らと渡米し、遺品を受け取った。「沖縄の海で亡くなったことは聞いてはいましたが、バンカーヒルに突っ込んだことは手紙などで初めて分かったんです」
体は小さかったが、聡明で笑顔が絶えなかったという清さん。遺品が戻り、その生き様をもっと知りたいと、陽子さんは鹿児島や沖縄に出かけた。さまざまな資料を調べ、清さんを知る人にも会った。戦友からは「ハンサムで頭のいい青年」と聞いた。
◇「奇跡の時計」紙芝居に
一方で、清さんは加害者であり、被害者であることも痛感した。陽子さんの夫の愛之(としゆき)さん(71)は「戦争って、考えてみたら自分の家族が殺人者になる。それは耐えられないこと。そういう悲惨なことがあったのは忘れてはいけない」
今年は戦後80年だが、節目だから清さんを強く意識するということはない。愛之さんは言う。「いつも同じ気持ち。遺品は身近なもの。ふとした瞬間に目にすると、自然に思い出すんです」
8月8日、高崎市内で紙芝居「奇跡の時計」が上演された。実話をもとに、陽子さんらが高崎市遺族の会と協力して制作した。紙芝居は、清さんの最後の手紙で締めくくられる。
<お父さんお母さん。清も立派な特別攻撃隊員として、出撃する事になりました。思えば二十有余年の間、父母のお手の中に育ったことを考えると、感謝の念で一杯です。まったく自分ほど幸福な生活を過ごした者は、外に無いと信じ、このご恩を君と父に返す覚悟です。あの悠々たる、白雲の間を越えて、坦々(たんたん)たる気持ちで、私は、出撃して征きます。生と死と何れの考えも浮かびません。人は、一度は死するもの、悠久の大義に生きる光栄の日は、今を残してありません。父母様もこの私の為に喜んで下さい。ことに、母上様には、ご健康に注意なされ、お暮し下さる様、なお又、皆々様のご繁栄を祈ります。清は、靖国神社に居ると共に、いつもいつも父母上様の周囲で幸福を祈りつつ暮らしております。清は、微笑んで、征きます。出撃の日も、そして永遠に。>
陽子さんは出撃直前の写真を見た時、涙が止まらなくなったという。「何考えて、このトラックに乗っていたんだろうって。これから死にいく人が。顔面蒼白(そうはく)で、決して笑顔ではないですよね」
そしてこう続けた。「大叔父らの犠牲の上に、私たちは今生かされている。それは本当にありがたいこと。戦後90年になったら、動きが取れなくなるかもしれません。遺品はいつか、資料館のようなところで保管していただくかもしれません。健康でいられる以上は守っていきたいですし、皆さま方にお伝えしたい気持ちでいっぱいです」。遺品は昨年に続き、今秋も高崎市内で展示される予定だ。
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