「昨夜はバタンキュー」 ノーベル化学賞北川進さん、一夜明け会見

2025/10/09 11:19 

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 ノーベル化学賞の受賞決定から一夜明けた9日朝、京都大特別教授の北川進さん(74)が記者会見し、「これからやることがいっぱいある。感慨に浸るのはだいぶ先で、今は休んで体を大切にしたい」と晴れやかな表情で語った。

 午前9時に大学を訪れた北川さんは、職員や学生ら約200人に大きな拍手で迎えられた。「たくさんの方々に注目していただき、ありがとうございます」と礼を述べ、花束を受け取った。

 その後に記者会見に臨み「昨夜は『バタンキュー』で、気持ちよく朝起きた。今日は元気」と話した。祝福のメッセージを数多く受け取り「見切れていない。研究以外に大学の理事業務もあるが勘弁してほしい」と苦笑い。司会者から「理事業務もお願いします」と言われると、思わず笑みをこぼした。

 また、研究者を目指す若い世代へのメッセージを求められた北川さんは「科学技術は人類の幸福に向けて貢献してきた。ネガティブな部分もあるが、そこを否定せず科学者がチャレンジしてよりよいものを作る必要がある」とエールを送った。

 話題は、友人で今回共同受賞が決まった米カリフォルニア大バークリー校のオマー・ヤギー教授にも及んだ。北川さんは「若い頃はビールを飲んでよく話した。時間があれば良い景色を眺めて、酒を飲みながら歓談したい」と話した。【中村園子、太田裕之】

 ◇「放牧型」指導で研究者育成

 北川さんは自主性を重んじる「放牧型」の指導で、多くの優れた研究者を育成してきた。時には酒を酌み交わし、フラットな目線で熱く語り合った後輩たちは、恩師の栄冠を我がことのように喜んだ。

 北川さんの研究室に2009年までの7年間在籍した関西学院大教授の田中大輔さんは、北川さんから繰り返し言われた言葉をよく覚えている。

 「0から1を生み出すのが研究者だ。誰かのまねや、はやりを発展させるのは一流の研究者ではない」

 若手研究者に対し、粗削りであっても自由にやらせ、独創的な研究を何より大切にした。田中さんも「若い時にこの考えをたたき込まれ、自分の研究スタイルが身についた」という。

 約30年前、北川さんが今回の受賞理由となった金属有機構造体(MOF)について発表した時は、懐疑的な声が出たり、不当な評価を受けたりした。

 それだけに、北川さんは後輩らに「潰れてしまわないように信念を貫くことが大事」と説いた。田中さんは「私も、困難な時でもくじけず頑張ろうと思えるようになった」と感謝する。そして受賞決定を「感無量」と心から喜んだ。

 計6年間指導を受けた北海道大教授の野呂真一郎さんも、北川さんからMOFの研究について「発表当時は見向きもしてもらえなかった」と聞かされた。野呂さんは「この材料でいけるという直感、研究者として最も重要な信念があったのだと思う」と語る。

 酒席で学生らと語り合う姿も印象的だった。「学生たちと熱い議論を交わしていた。やりたいことは自由にやらせてくれたが、研究の方向性も考えて指導してくれた。今も多くの教え子が活躍している」と野呂さん。「待ち焦がれていた」という吉報に声を弾ませた。

 16年間の付き合いとなる京都大教授の古川修平さんも、同じ目線で接してくれた北川さんに感謝する。「フランクにいろんな研究の話ができる。教授は偉いからお前らついてこい、みたいなことはない。自由にやらせておいて、的確なタイミングで的確なことを言う。『放牧型』だと思います」と語った。【小川祐希、寺町六花、砂押健太】

毎日新聞

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