ホームに響いた「安月給!」 エスカレートする撮り鉄の迷惑行為

2025/10/22 15:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 「安月給」。奈良市の近鉄・大和西大寺駅に集まった「撮り鉄」の一部が駅員に暴言を浴びせた動画が交流サイト(SNS)に投稿され、炎上を招いた。

 駅員は「撮り鉄」が愛する鉄道を守るいわば「身内」とも呼ぶべき存在だ。

 なぜ罵声を浴びせるまでにヒートアップしてしまうのか。鉄道愛好家であり、フリーライターの小林拓矢さん(46)に心理を読み解いてもらった。

 ◇飛び交う暴言

 トラブルが起きたのは10月5日夕。動画を確認すると、駅ホームに進入してくる列車を撮影しようとカメラを構える男性数人が、安全確保のため注意を呼びかける男性駅員に、暴言を浴びせている。

 写真や映像に駅員が入らないように後ろに下がるよう要求しているが、駅員は「邪魔してるんじゃない」「危ないねん」と諭すように語りかける。

 そして、撮影する側が発する「1枚だけ撮らせて」などと懇願するような言葉は、「(後ろに)下がれよ」「安月給」などの暴言へとエスカレートしていった。

 近畿日本鉄道広報部によると、被写体となった列車は団体旅行用の特別車両と通常の特急を連結させた珍しい編成だった。事前に公表していなかったが、聞きつけた鉄道愛好家が集まってきたという。

 騒然とした数分後、お目当ての列車が過ぎ去ると集団は解散した。

 駅員や利用客にけがなどはなかったが、あまりの暴言だったため、近鉄側は被害届こそ出さなかったものの翌日、警察に相談したという。

 暴言の様子を捉えた動画がSNSに投稿されると瞬く間に拡散された。

 <駅員さんの仕事の邪魔するのはさすがにアウト>

 <もう社会も大目に見るのは限界>

 SNSには「撮り鉄」たちに対する批判の投稿が相次いだ。

 ◇撮り鉄を変えたスマホとSNS

 いったい「撮り鉄」を迷惑行為に駆り立ててしまう要因は何だろうか。

 自らも鉄道愛好家である小林さんは「駅員への暴言は間違った行為」とため息をつく。

 長い鉄道史において、スマートフォンとSNSの普及が「撮り鉄」の一部を過激化させたと小林さんは見る。

 列車を見たり写真に収めたりするために絶好のポイントに人が押し寄せることは昔からあったが、スマホの普及により運行情報の収集が容易になったうえ、撮影した素材をSNSに投稿することで仲間内で注目を集めることも短時間でできるようになった。

 「鉄道ファンにとって鉄道はアイドルのようなものです。それ自体魅力的だし、その写真を撮ったということで仲間内で称賛の対象になれるのです」

 小林さんによると、そこで問題となってくるのが、ポジション取りだ。絶好の立ち位置には多くの人が密集し、すでに殺気立っている。

 やっとのことで押さえたポジションで構えたカメラが狙う被写体を、少しでも遮るものが許せないという心理が働くというのだ。

 ◇撮るなら乗って

 近鉄は「過激な発言をしていた人はごく一部。鉄道愛好家も、そうでない利用客もどちらも大切です。安全に配慮して互いにいいように写真を撮っていただければ」と話す。

 小林さんによると、人が殺到しそうな編成は有料の撮影会などを企画したりするなど、鉄道会社も工夫をこらしているという。

 撮影する側の過激な迷惑行為を防ぐことはできないのだろうか。

 「撮影する側が節度を守るのはとても難しいことです」

 昨今のトラブルを振り返りながら小林さんは鉄道愛好家として訴えかけた。

 「鉄道は乗り物ですから、本当なら撮影に熱を出すよりも乗ったりグッズを買ったりするのが鉄道愛好家の正しいスタイルではないでしょうか。鉄道を走らせるのにもお金がかかります。運賃を払って利用することが鉄道を守り、貢献することにつながると思います」【山崎明子】

毎日新聞

社会

社会一覧>