増える子どもの薬物依存、大人はどう受け止めるべき? 専門家に聞く

2025/10/24 16:01 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 政府が24日発表した2025年版の自殺対策白書では、若者の自殺者が3000人超で高止まりし、市販薬の過剰摂取「オーバードーズ(OD)」と自殺未遂の関連性の高さも明らかになった。大人は、社会は、国は、この状況をどう受け止めたらよいか、どのような対策が求められるのか。「もし身近な人がODをしていたら?」。長年、薬物依存症の問題に取り組んできた、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部長に聞いた。

 ――今回の白書では、自殺未遂した人の手段を見ると40歳未満ではODが6割を超え、厚生労働省の担当者は「OD対策が重要」と話しています。

 ◆まず問題として認識するのが遅すぎます。私たちは2018年から対策を国に求め続けてきました。救急対応できる病院へのODによる搬送は増える一方で、状況は悪化し続けています。

 例えば若者のODが広がる東京・歌舞伎町の「トー横」では、保護される子どもたちは親の虐待から逃げてきて、地元に帰りたくないと言う。ODはSOSなんです。

 対策として薬を取り上げたとしても、今度はリストカットを繰り返すことになる。ODを「いただけない行動」とするのではなく、「生きづらさのサイン」とみて、医療だけでなく福祉、地域保健全体で支援していく必要があるのは論をまちません。

 ――なぜODが広がったのでしょうか。

 ◆一つはODを受け止められる支援や機関の少なさがあります。もう一つ、すごく気になっていることは政府が医薬品の市販化を進めてきたことです。医療費削減の一環として、もともとは処方薬だったものがスイッチOTCとして市販されるようになったり、一定の条件を満たせばコンビニエンスストアでも市販薬の購入が可能になったりするなど医薬品の市販化を進める動きが強まっています。

 多くの国民は、市販薬は病院でもらうより「効果は薄いけど副作用も弱い」と思っているけれど、それは誤解です。戦前の文学者たちの自殺未遂の手段で使われたような成分を含む薬も売られています。10代の薬物依存症患者の7割以上は市販薬を使用していました。政府が市販薬の流通拡大を進めてきたことが要因にあるのではないでしょうか。私はさまざまな機会をとらえて、この危険性を主張してきました。

 ――子どもたちに近い学校現場や啓発には何が求められるでしょうか。

 ◆薬物乱用教育は「ダメ。ゼッタイ。」を標語に違法薬物に特化し、とにかく違法薬物に手を出さないという1次予防に取り組んできました。ところが私たちの調査では、教室の中にODの子どもが1人いてもおかしくないほど薬物依存が広がっています。そうすると、教室の中にも経験者、当事者がいて、その子どもたちにも向き合う1・5次予防とも言える介入が必要です。その認識が厚労省も文部科学省も十分ではない。

 また、厚労省は3月に「ODするよりSD(相談)しよう」という啓発動画を公開しましたが、相談に行っても「ODをやめろ」と言われるだけだから相談できないわけです。相談しても受け止めてもらえないからODで対処している子どもたちもいる。虐待やいじめなどの心的外傷後ストレス障害(PTSD)もあり、自分なりに対処しているのです。その辺りのことを理解した上で本気で対策をやっていく必要があります。

 ――ODをしている若者が身近にいる時はどうすればいいのでしょうか。

 ◆もしも友達だったら、何かトラブルがあるのかもしれない。悩み事を抱えているかもしれない。見て見ぬふりではなくて、できれば学校の中の一番信用できる人につなげてあげてほしい。一緒についていってあげてほしい。子ども同士では複雑で対応は難しいこともあるから、大人につなげてあげることが必要です。

 ただ、つながった先の大人が「ダメだ、やめろ」と頭ごなしにしてしまえば、そこから先に進めなくなってしまいます。大人も、社会も子どもが勇気を出して伝えたSOSを受け止めて支援していく体制が必要です。【聞き手・宇多川はるか】

 ◇相談窓口

・24時間子供SOSダイヤル

 いじめやその他の悩みについて、子どもや保護者などからの相談を受け付けています。原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。

 0120・0・78310=年中無休、24時間。

・子どもの人権110番

 「いじめに遭っている」「家の人に嫌なことをされる」など、先生や親には話しにくい相談に法務局の職員や人権擁護委員が応じます。

 0120・007・110=平日の午前8時半~午後5時15分

・まもろうよ こころ(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/sns/)

 さまざまな悩みについて、LINEやチャットで相談を受けている団体を紹介する厚生労働省のサイトです。年齢や性別を問わず、自分に合った団体を探せます。

・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/)

 悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。

毎日新聞

社会

社会一覧>