紅葉の時期でもないのに赤茶けた森林 各地で広がる「ナラ枯れ」

2025/11/06 08:15 

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 思わぬ光景を目にしたのは、残暑で最高気温が25度以上の夏日が続いた9月下旬だった。青森県の日本海側から北へ突き出している津軽半島。その中央部に位置する中泊町の大沢内ため池公園を訪ねると、紅葉の時期でもないのに青々とした森林が所々赤茶けていた。木の根元をよく見ると、白い粉のようなものが積もっている。

 原因は、ナラなど広葉樹を枯らす樹木の感染症「ナラ枯れ」だ。各地で広がっているという。現状を取材した。

 ◇1980年代後半から被害目立つ

 ナラ枯れは、ミズナラやコナラなどが病原菌に感染して集団で枯死する樹木の病気だ。菌は、カシノナガキクイムシ(カシナガ)という虫によって運ばれる。

 カシナガは体長5ミリ程度。幹に直径1~2ミリの穴を開け、トンネル状に掘り進めて菌を広げる。

 感染した細胞が壊死(えし)すると、水分や養分の通り道がふさがれる。最終的には木全体が枯れてしまう。

 カシナガが幹に穴を開けると、根元には木くずやフンが混ざった粉状のものが確認されることが多い。

 県の担当者は「公園で見られた白い粉は、その可能性が高い」と話す。

 被害は1980年代後半、日本海側で目立つようになった。林野庁のまとめでは、2024年3月までに、北海道を含む44都道府県に広がった。うち半数で23年度から被害量が増加した。

 被害により貴重な森の景観を損ねるだけでなく、倒木による交通障害や停電など人の生活にも影響する。

 ◇生活様式の変化も影響

 各地でナラ枯れの調査をしている斉藤正一・山形大客員教授は「今年は青森や山形、秋田、福島、群馬で24年より被害量が確実に増えている」と指摘する。

 その理由として、感染しやすい気象条件を挙げた。

 1~3月の気温が高く、カシナガが死なずに越冬した。さらに、夏の猛暑と渇水という異常気象がナラ類にストレスを与え、枯れやすくなったという。

 斉藤さんは「生活様式の変化もある」とみる。

 ナラはかつては、まきやシイタケの原木として盛んに使われていた。

 だが、近年は利用されることが減り、その結果として幹が太くなり、カシナガが侵入しやすくなったという。

 青森県内の被害は10年に初めて確認された。対策によっていったん抑え込んだが、16年に再び発生した。

 20年には、世界自然遺産「白神山地」(青森、秋田両県)の地域内でも見つかった。

 今季、青森県内で被害があったのは、40市町村のうち29市町村。感染が確認された木は10万本を超えた。過去最多だった昨季の1・6倍だ。

 カシナガは侵入した木で産卵。翌年の6~7月に羽化して周辺の健康な木に移って被害を拡大させる。今年は6月下旬ごろに強風が吹いたことも、生息域拡大につながったとみられる。

 県は政府と連携し、カシナガをフェロモン剤で丸太に誘導して駆除する「おとり丸太」の設置や、高齢で太い木を伐採して森を若返らせる予防策などに取り組んでいる。

 ところが、対策が被害拡大のスピードに追いついていないのが現状だ。

 県林政課の幹部は、10月に開いた被害対策検討委員会でこう述べた。

 「限られた予算の中で、公益性の高い森林などで集中して対策に取り組んでいく」【足立旬子】

毎日新聞

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