<令和のリアル>「もっと遊ばせてあげれば…」中学受験に「後悔ある」親が5割

2025/12/01 15:00 

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 <ストレスで子どもが髪を抜いていた>

 <成績が上がらないと感情的にしかってしまった。今思えば狂気だった>

 大都市圏を中心に過熱する中学受験。だが、「中学受験や受験勉強で後悔していることがある」と振り返る親が半数に上る。

 こんな本音が、個別指導塾などを展開するスプリックス(東京都渋谷区)が100組超の親子を対象に行った調査で明らかになった。

 多額の時間や費用を要し、親子へのさまざまなプレッシャーやストレスが指摘される中学受験。合格体験記などからは見えてこない親子の本音を探ろうと実施されたアンケートからは、親が考える以上に子どもたちがさまざまな我慢を強いられている現状も浮き彫りとなった。

 ◇かけた費用 300万円超が3割弱

 調査は今年8月、東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県に住む中学受験を経験した中学1~3年生と親の103組から回答を得た。18組には個別のインタビューも実施した。

 小6の時の平均勉強時間は平日3・6時間、休日5・7時間。塾利用者の平均通塾頻度は週4・5日で、毎日の子も12%いた。中受に掛けた総額は平均239万円で、300万円以上は27%に上った。

 「中学受験や受験勉強などで後悔していることはありますか」との質問には、親の52%が「ある」または「どちらかといえばある」と回答。後悔の種類は「親からのプレッシャーで子がストレスを抱えた」(25%)▽中長期的に見て子どものためになる習い事をやめさせてしまった(19%)▽もっと遊ばせてあげればよかった(18%)――の順に多かった。

 ◇「本音を我慢」の子が2割

 親へのインタビューでは、こんな声も上がった。

 「(不合格だった中学に)合格したと友達にウソをついていた。不合格は本人のトラウマだったと思う」

 「燃え尽き症候群で全く勉強しなくなった。入学後の勉強についていけていない。第1志望に受かったが、受験させなければよかった」

 だがそんな親たちの想像以上に、子ども自身はプレッシャーを受けていたようだ。

 アンケートでは子どもに「中学受験や受験勉強のために我慢したこと」、親に「子どもに我慢させたこと」を尋ね、同じ選択肢から選んでもらった。

 その結果、子と親で「我慢」の認識に差が少なかったのは、「ゲーム」=子68%、親65%▽「家族旅行・お出かけ」=子48%、親49%――などで、「テレビ・ユーチューブ・SNS」は子61%、親71%とかえって親の方が高かった。

 その一方、差が大きかった項目もあった。

 「友達との遊び」=子76%、親42%▽「習い事・趣味」=子55%、親34%▽「睡眠」=子30%、親8%▽「自分の意思・本当の気持ちを表現すること」=子19%、親4%――だった。

 長時間の勉強と合格のプレッシャーにさらされる中、子どもたちは親が思っている以上に、友達との遊びや、興味のある習い事や趣味をあきらめ、そんな本音を親には打ち明けられていない――。そんな現状が浮かび上がってくる。

 ◇「隠れて遊んだ」「泣けなかった」

 中3の女子生徒はインタビューに対し、「友達と遊べないことがめちゃくちゃしんどかった。父に隠れて木曜だけ遊んでいた」と振り返った。

 「休日の塾は8時間で、息抜きで漫画を読んでいたら父からあきれられた。『何も知らないくせに』と悔しかったが、『泣いてやる気が出るなら良いわ』と以前言われた一言が頭をよぎり、泣くにも泣けなかった」

 103人へのアンケートでも、「一番つらかったこと」で最も多かったのは、「遊ぶ時間がなくなった」が78%、次に「勉強でストレスを感じることが増えた」が67%だった。

 また、「勉強に関して印象的だった親のリアクション」は、「結果や成績をほめてくれたこと」(61%)▽「はげましてくれたこと」(52%)などが多かった半面、「怒られたこと・怒鳴られたこと」も35%に上った。

 ◇娘は鋼のメンタル?

 インタビュー調査でも、親子の認識の「ズレ」が散見された。

 ある母親は「娘は気にしない性格なので、塾から『テストできたよー!』と帰ってきても、(実際は)『全然できてないじゃん!』となる」「娘は鋼のメンタルだったが、第1志望不合格がわかった時は泣いていた」と語った。

 だが、当の娘(現在は中3)は「相談できる相手がいなくてつらかった」「プレッシャーがすごかった」「他の子は解けるのに、と自分にあきれた」「家族に逆ギレで当たってしまう」と振り返り、とても「鋼のメンタル」とは言いがたい、当時の心の内を明かした。

 別の母親は「受験組の親同士で仲良くなって、支え合った」と振り返った。

 だが、息子(現在は中2)は成績を他人と比べ、友達関係にヒビが入ってしまった。

 「受験は耐久レース。友人と差が開いたときに劣等感を感じた」

 「勉強のことを考えてつらくなりすぎて、家族ぐるみで仲の良い友人と話せなくなった。友達の目が見られなくなり、『おはよう』も言えなくなった」

 ◇4割の子が「中受で勉強が嫌いに」

 子どもへの「小学生の時、何のために勉強していたか」(複数回答可)の設問では、「中学受験のため」が99%、「将来困らないように」が77%だった一方、「親をがっかりさせたくない」が51%、「勉強が好き・楽しいから」は24%だった。

 「中学受験を経て、勉強が好きになったか、嫌いになったか」の問いには「嫌い」「どちらかと言えば嫌い」が計41%に上った。その逆で、「好き」「どちらかと言えば好き」は計51%いた。

 そして、「中学受験は成功体験になったか」という問いには、第1志望に不合格の子も含め計83%が「成功」「どちらかと言えば成功」と答えた。

 スプリックスは個別指導塾「森塾」の運営やオンライン教材の開発を展開する。だが、1997年の創業以来、中学受験に特化したサービスは提供していないという。

 同社は「中学受験は、表向きは合格体験記や成功体験が多く語られ、親同士の会話でも失敗談はなかなか出てこない傾向がある」と今回の調査の趣旨を説明する。

 常石博之代表は「教育費の過剰投資やSNSの情報偏重で、過熱化から抜け出せなくなっている保護者も多い。妄信的な中受選択ではなく、メリット・デメリットをきちんと理解したうえで、中受をするかどうかの判断が必要ではないでしょうか」と指摘する。【尾崎修二】

毎日新聞

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