「小さい犬か?」いや、クマだった 自宅で襲われた男性語る一部始終

2025/12/03 18:01 

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 秋田県湯沢市のJR奥羽線湯沢駅付近の中心市街地で10月20日の早朝、クマが出没して4人を負傷させ、5日間にわたって民家内にとどまった。この家に住む高橋浩さん(65)が毎日新聞のインタビューに応じ、「まさか家の前に座っているとは思わなかった。防ぎようがない力とスピードだった。とっさにクマを家に閉じ込めた」と襲撃当時の状況を語った。

 市中心部ではこの日の午前5時から6時20分ごろにかけ、湯沢駅付近の路上やホテル駐車場、民家で50~70代の男性4人が相次いで襲われ、背中や腕、足などを負傷した。4人目の高橋さんは、駅から北東約200メートルの場所にある自宅で被害に遭った。

 「朝起きたら、パトカーが家の周辺を回っており『クマが出てます、気をつけてください』と放送していた。最初はうまく中身が聞き取れず、一体何かなと思って家の扉を開けたら、2メートル先にクマが座っていた」。高橋さんはそう振り返る。

 「小さい犬か何かかな」。そう思った直後、体長約1・3メートルのクマが襲いかかってきて右脚の裏側にかみついた。高橋さんは思わず後ろに倒れこんだ。クマは1カ所かみ、そのまま家の中に入り込んで突進していった。

 高橋さんは1人暮らしで夜間は家の戸は全て内側から鍵をかけており、「クマを家に閉じ込めなければ」ととっさに思いついて入り口の扉を閉め、家から出た。その後、警察などが駆けつけ、家の外にはビニールシートが張られた。

 市の担当者らはクマが侵入した入り口と、別の玄関付近の2カ所に箱わなを設置した。作業中、家の中にとどまるクマの様子が窓の外からも確認できたという。

 発生から6日目の25日、クマは捕獲された。その間、高橋さんはけがの治療のため入院していた。

 クマは高橋さんの家の中で、1、2階の全ての部屋を動き回っていたとみられる。

 捕獲後に退院した高橋さんが帰宅すると、畳の部屋などに数カ所ふんや足跡が残っていた。台所の食器が割れていたが、畳の部屋や仏壇、障子、保管していたコメが荒らされた形跡はなかったという。

 家の中は市が費用を負担し、業者によって清掃や消毒作業が行われた。だが、買い替えを余儀なくされた布団や毛布類の購入費用は自己負担した。

 片付け作業は地元の人も手伝った。「大変だったね」「脚は大丈夫?」などと声をかけられたという。

 高橋さんは「まさか家の前にクマがいるとは想像もしなかった。とっさのことで、あの速さで来られては顔も防ぎようがない。脚の1カ所だけのけがで済んでかえって助かった」と語る。

 さらに「今後もクマはどこにいて、どこから出てくるか全く想像がつかない。家から出る時にはまずはいきなり扉を大きく開けず、まず少し開いて外の安全を確認してから出る方が良いと思った」と話す。

 湯沢市の佐藤一夫市長は11月7日、退院して自宅に戻った高橋さんを訪ね「扉を閉めてもらっていなければ被害がさらに広がったかもしれない」と、その後の人身被害の拡大を防いだことに謝意を示した。市は見舞金として高橋さんに5万円を支給するという。【工藤哲】

毎日新聞

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