<eye>平和を離さないように 広島で最高齢の被爆証言者 切明千枝子さん
「子どもたちを私たちのような目に遭わせたくないからです」
広島市で最高齢の被爆証言者、切明千枝子さん(96)に「なぜ、証言を続けるのですか」と尋ねると、こう理由を教えてくれた。
見せてもらったスケジュール帳は、どのページも予定で埋まっていた。10月下旬、修学旅行生が対象の被爆証言に3度立ち会い、思いの強さを実感した。
切明さんの証言は戦前の「軍都・広島」の説明から始まる。市内各所に陸軍の施設があり、南部の宇品港(現在の広島港)は中国大陸に兵士を輸送する拠点だった。自身も軍国少女で、同級生の男子が中国人に対する蔑称を使って出征兵士を激励したというエピソードを紹介する。
東京都内の高校1年生の回では、所定の時間を過ぎても話が尽きず、自ら描いた、原爆で炎上する広島のイラストを掲げながら被害の大きさを語った。
大阪府内の小学6年生の回では、小さな会議室で音響設備がなかったため、約1時間立ったまま話した。座ると大きな声を出せないからだ。被爆体験に入ると、児童たちの表情が変わった。切明さんは15歳の時、爆心地から1・9キロで被爆した。ガラスの破片が頭に刺さったまま、負傷した生徒の救護に当たり、校庭で遺体を焼き、埋葬した。
全身やけどの下級生が垂れ下がった皮膚を引きずって歩く様子も再現した。「桜の花びらのような淡いピンクの遺骨を見た時、初めて涙が出ました」と話す切明さんを、児童たちはじっと見つめていた。
切明さんが本格的に被爆証言を始めたのは80歳を過ぎてから。広島では学徒動員で作業中の生徒約7200人が原爆により亡くなったとされ、切明さんの学校でも46人が犠牲になった。「自分が伝えないと同窓生らの死がなかったことになってしまう」との思いからだ。
修学旅行がピークの10~11月、切明さんが行った被爆証言は20回に達した。「100歳まで4年。そこまで生きる自信はありませんが、子どもたちに会うと元気をもらえます。話せる間は頑張りたい」と力を込める。
支えになっているのは、子どもたちから届く感想文だ。「私たちが伝えていきます」。自分の言葉をきちんと受け止め、平和の大切さを理解してくれた。読むと自然と涙が出る。
証言の最後、必ず口にするフレーズがある。「平和というのは、うっかりするとすぐに逃げてしまう。逃がさないよう、つかまえて、離さないようにして」【佐藤賢二郎】
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