<eye>変わり果てた港町 再び戻れる日を信じて
11月18日夕刻、穏やかだった港町は一変した。大分市佐賀関を襲った大規模火災は空を赤く染め、187棟の住宅や空き家(約4万8900平方メートル)を焼き尽くした。1人が死亡した。
12月上旬。火災発生当時と変わらない冷たい風が吹き荒れていた。焼け落ちたトタンがガタガタと音を立て、営みが消えた集落にむなしく響き渡る。
親族宅に妻と避難していた漁師の橋本寿(ひさし)さん(89)は、18日ぶりに自宅へ戻ってきた。
「ずーっとおる家やからのお」。生まれ育った家の前で当時を振り返った。
強風にあおられて燃え広がる火の手が、海側にある自宅まで迫ってきた。ついに隣の空き家に燃え移り、屋根から火柱を立てて燃えていた。自宅から離れられず、熱風を浴びながら中にとどまっていた。
「はよう出ろえー!」。11月19日午前0時過ぎ、消防や近所の人に説得され、火の粉をかぶりながら逃げた。「もうダメかもしらん」。思い出が詰まった家を離れるしかなかった。
鎮火後、自宅に戻ると火はすぐ裏手で止まり、被害は窓ガラスが割れる程度だった。しかし、顔なじみの家は跡形もなくなり、日常だった近所の変わりように困惑した。
橋本さんは、変わり果てた古里を漁港からじっと見つめる。漁船に乗り込み、久しぶりにエンジンをかける。特産品の「関さば」「関あじ」漁で使う道具の手入れをしながら、船上でつかの間の時間を過ごした。「ただでさえ人が少ないのに、これからどうなるやろか」
12月3日、規制区域への一時立ち入りが許可されると、住民らは焼けた家から、思い出の品などを持ち出した。
助け合いの輪も広がっている。火災現場から200メートルほど離れた宮田理容店では、被災者に無償で施術を提供している。店主の宮田直之さん(84)は「みんな家族みたいなもん。いつもお世話になっているから恩返しの気持ちも込めて」と優しくほほえんだ。
12月17日現在、52世帯72人が避難所に身を寄せている。大分市は、被災者に無償で市営住宅の提供を始めた。しかし、被災地から約15キロ離れたところもあり、住民からは「地域コミュニティーが失われるのでは」と懸念の声が上がる。
火災から1カ月。住民たちは、古里に戻れる時が来ると信じて、歩み出している。
写真・文 玉城達郎(大分市佐賀関で12月に撮影)
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