<追跡公安捜査>警視庁に異例の賠償勧告 監査、上司2人の重過失を認定 大川原冤罪
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で東京都が支払った約1億8500万円の損害賠償を巡り、都監査委員は16日、警視庁公安部の幹部と捜査員の計3人に対し、賠償額の負担を求める求償権を行使するよう警視庁に勧告した。3人に故意や重い過失があったと判断した。
国家賠償法では、公務員が職務で損害を与えた場合、国や自治体が賠償責任を負うと定める。個人に故意や重い過失がある場合には求償権の行使を認める規定があるが、違法捜査を巡って捜査幹部ら個人に賠償額を負担する責任があるとする判断は極めて異例だ。
警視庁側は4月15日までに3人に負担させる額を決める。賠償額の一部にとどまるとみられるが、金額が少ない場合は大川原側から住民訴訟を起こされる可能性があり、警視庁側の負担額の算定が焦点になる。
3人は、捜査を指揮した公安部外事1課の渡辺誠管理官と宮園勇人係長、違法な取り調べをしたと確定判決で認定された安積(あさか)伸介警部補(肩書はいずれも当時)。渡辺管理官と宮園係長は定年退職している。
この事件では、インスタントコーヒー粉末の製造などに使われる大川原の噴霧乾燥器について、生物兵器の製造が可能な輸出規制品にあたると公安部が独自解釈。国際基準に沿えば輸出に問題がないのに、社長らを外為法違反(不正輸出)の疑いで逮捕した。
監査結果によると、公安部は不正輸出の判断根拠として、細菌を殺菌できる高温が維持される装置だと主張したが、任意捜査で大川原側の複数の従業員は「温度が上がらない箇所がある」と指摘していた。立件に不利な証拠だったにもかかわらず、渡辺管理官と宮園係長は外事1課長以上の幹部に報告せず、部下から追加の温度実験を進言されても耳を貸さなかった。
こうした経緯について、違法捜査を認定した確定判決は過失の度合いまで触れなかったが、監査結果は2人の対応を「ほとんど故意に近い重過失」と判決よりも踏み込んで認定した。
安積警部補については確定判決と同様、故意に違法な取り調べをしていたと認定した。ただ、上司である渡辺管理官と宮園係長の指導監督に関する重過失までは認めなかった。
大川原側代理人の高田剛弁護士は16日に記者会見し「違法捜査の抑止力として、非常に意味がある」と監査結果を評価した。安積警部補の違法な取り調べを受けた大川原元取締役の島田順司さん(72)も会見で「このようなひどい事件が二度と起こらないようにという思いだ」と力を込めた。
事件を巡っては東京高裁が2025年5月、警視庁と、社長らを起訴した東京地検の捜査を違法と認定し、都と国に約1億6600万円の賠償を命じた。都が支払った約1億8500万円には遅延損害金や、国側の賠償額約9000万円も含まれている。警視庁は3人に対し、都側の賠償額約9500万円まで負担させることができる。
監査は大川原側が25年11月に請求していた。都監査委員は5人だが、監査は4人で実施された。公安部参事官の経験がある監査委員1人が辞退した。
警視庁は「監査結果を踏まえ、真摯(しんし)に対応します」とコメントした。【遠藤浩二】
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