<eye>のしかかる負担 でも「これ以上の良い仕事ない」

2026/02/12 16:00 

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 まだ日も昇らない早朝、岩手県大船渡市の綾里(りょうり)漁港で男たちの笑い声が防潮堤に反響する。たき火で暖をとる顔が赤く照らされていた。

 2011年の東日本大震災から間もなく15年。港の周囲を高さ約13メートルの津波が襲い、綾里地区では27人の死者・行方不明者が出た。

 復興事業で漁港の周囲には、高さ約11メートルの防潮堤が完成した。荷さばき施設なども整い、漁師たちは、日々、三陸の豊かな漁場へ船を出す。綾里漁協全体の水揚げ金額は震災前の水準まで回復しつつあった。

 25年2月に発生した大船渡市の大規模山林火災では、市の1割にあたる約3400ヘクタールが焼失した。被害の大きかった綾里地区では震災後に高台などに移った複数の漁師が自宅や倉庫を失った。

 「いちに、いちに」。出港から10分ほどで定置網の設置場所に着くと、漁師たちが網をたぐり寄せ始めた。朝日で海が赤く染まる中、イナダや大きなクロマグロが水しぶきを上げると男たちのかけ声も一層大きくなった。

 「これまで払ってきた震災のローンが火事によって振り出しに戻った感じだ」

 定置網漁船に乗る古川祐介さん(41)は震災で自宅や船などほぼ全ての私財が流された。ワカメ養殖などで生活を再建しているさなか、火災で漁具を入れる倉庫が全焼した。倉庫には補助金が出ないため、2000万円近くの建設費用が重くのしかかる。資材の高騰もあり、費用は数年前の倍以上に膨らむ。

 ローン返済のため、今年はワカメ養殖用ロープの長さを例年より3割ほど増やして臨む。

 自然が牙をむき、津波と火災の二重被害を受けながらも古川さんは漁師をやめる考えはない。「生まれ育った場所だし、これ以上に良い仕事もないしね」【写真・文 西夏生】

毎日新聞

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