政府「公式」地震予測の転換期 高度化のカギは地殻変動データ
「M6以上の地震が1カ月以内に○○で起きる」「的中率90%、○○大名誉教授が監修」。根拠がよく分からない地震予知情報をSNSや週刊誌で見ない日はない。
一方で、政府は公式の地震予測である「長期評価」を20年以上前から公表してきた。この長期評価が高度化に向け現在、大きく変わろうとしている。
長期評価は、主要な活断層で発生する地震や、南海トラフなどの海溝型地震について、地震の規模や一定期間内に発生する確率を予測するものだ。発生確率をランク分けしており、自治体のハザードマップや耐震基準の指標にもなっている。
1995年の阪神大震災を受けて設置された、地震調査研究推進本部(地震本部)が長期評価を行ってきた。阪神大震災は、地震学者にはよく知られた活断層で起こったが、科学的知見が防災に生かされなかったことが教訓とされたからだ。
◇活断層の評価に加え
ただ、この30年で課題も見えてきた。
内陸地震の評価材料になる活断層は、過去の大地震が地面をずらした「傷痕」で、今後も地震を繰り返す可能性が高い場所だが、その発生間隔は数百年から数千年単位と非常に長い。そのため、大地震の多くは、評価した主要活断層以外で発生してきた。
また、「地震大国」として、世界の地震研究をリードしている日本だが、地震の長期評価を活断層に頼る、日本のような国は少数派だ。
米国やニュージーランドなどでは、活断層の評価に加え、地震活動と地殻変動の三つを組み合わせる地震予測手法が主流になっているという。
異なる手法で得られたデータを組み合わせることで、大きな地震の発生場所をより正確に予測できるとする複数の報告がある。
一方、この間に観測精度は飛躍的に上がった。
日本列島には、地殻変動観測網や高感度地震観測網が張り巡らされ、世界に類を見ない高密度の観測データが蓄積されつつある。爪や髪が伸びるほどゆっくりとした大地の動きや、ゆっくりと断層がずれるスロー地震などの現象がわかってきた。
◇委託研究がスタート
こうした状況を踏まえ、地震本部は2024年8月、活断層の調査に加え、地殻変動と地震活動、歴史記録の三つを含めた内陸地震の長期評価の高度化の研究開始を決定。25年8月に委託研究がスタートした。
政府の地震予測は現在、大きな転換期にある。
高度化の鍵を握るのが、地殻変動のデータだ。開発に携わる京都大防災研究所の西村卓也教授(測地学)は、データから、明確な活断層がない地域を含めた地震の発生確率の評価手法の開発に取り組む。
具体的には、地殻変動データから大地が変形する速度を計算し、ある地域に1年間で蓄積するエネルギー総量を求める。大小の地震が起こる割合の統計式により、エネルギー総量を地震の発生回数に換算し、最後に発生確率に変換する。
その結果、今後30年以内にマグニチュード(M)6以上の地震の発生確率が1%を超える場所は、西日本では半分以上あることが示された。特に確率が高い場所として、北陸から近畿にかけて伸びる「新潟―神戸ひずみ集中帯」や静岡県の伊豆半島周辺、九州中央部があがったという。
◇これまでとは大きく異なる結果も
また、これまでの算出方法とは大きく異なる結果になった地域もあった。
九州南部では、今後30年以内のM6以上の地震の発生確率が、従来の活断層による予測では8%だったが、地殻変動データを活用すると、17・3%となり、地域によって大きな差があることもわかった。地殻変動データから計算した発生確率の高い場所で、大地震が実際に発生する傾向にあることも確認したという。
西村さんは「短期的な成果で予測が当たったかどうかに注目が集まりがちだが、地震は人間が生きているスケールと比べると長いタイムスケールの現象だ。何万年単位でみていかないと本当のことはわからない」と話す。
その上で「日本列島は阪神大震災以降、観測網が充実しており、そうしたデータを生かした予測がようやくできるようになってきた段階だ。もう少し長い目でみてほしい」と理解を求めた。【垂水友里香】
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