「飲酒運転者」の自分と向き合い 車いすカーリング米代表が思う人生
「飲酒運転者」。それが彼に貼られたレッテルだった。
車いすカーリング混合ダブルス米国代表のスティーブン・エムト選手(56)は、これまで全米の高校を回って飲酒運転の危険性を訴え続けてきた。自分と同じ過ちを繰り返してほしくないという願いとともに、伝えたいメッセージがある。
1995年3月、病床で目を覚ますと、医師から「二度と歩くことはできない」と告げられた。腰から下がまひしていた。
その前日、エムト選手は酒に酔った状態でハンドルを握り、100キロ超のスピードで車を走らせていた。居眠りをした状態で高速道路で事故を起こし、車は横転。シートベルトをしていなかったため、車外に投げ出されたという。
このとき25歳。高校時代はバスケットボールの選手として活躍し、チームを州大会の準決勝に導くほどでスポーツ万能だった。現実を受け入れられなかった。「飲酒運転をした男だと思われたくない」と、周囲には鹿が目の前に飛び出してきたとうそをついた。だが、「心の傷が癒えることもなく、前に進むこともできなかった」と振り返る。
◇取材で語ったことがきっかけに
事故から半年近くたったころ、ある記者からの取材に応じた。飲酒運転について自ら語り、向き合おうと思った。この出来事をきっかけにエムト選手は少しずつ変わり始めた。
飲酒運転の撲滅に自身の経験が少しでも役に立てばと、依頼を受けた地元の学校で講演するようになった。今では全米を回るようになり、子供たちには「失敗は誰にでも必ず起こるもの。たたきのめされても前を向いて進み続けよう」と語りかけてきた。
車いすカーリングは10年ほど前から始めた。バスケットボールのように激しいぶつかり合いもなければ、全力で走ることもできない。当初は「フラストレーションがたまった」という。
ただ、練習を重ねるうちに気がついた。ブラシで氷の表面を掃くスイープがないため、専用のスティックでストーン(石)を押し出すショットの技術が勝敗を左右する。一発勝負の緊張感に「自分の可能性を証明する最高の競技だ」と思えるようになった。
今大会では惜しくもメダルを逃したが、準決勝まで進出した。帰国後は2カ月かけて全米の45校を講演で回るという。「ハードなスケジュールだよ」と苦笑いしながらも、生徒たちに伝えたいことを問われると迷わず答えた。「私の人生のモットーは、『何が起きたかではなく、起きたことにどう対処するか』だ。起きたことを受け入れて、人生を全うしてほしい。人生はかけがえのないものだから」【コルティナダンペッツォ遠藤龍】
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