「今月の注文は1件…」 トランプ関税に困惑する日本の農林水産業者

2025/04/12 11:43 

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 トランプ米政権の関税政策が二転三転し、日本の生産や流通の現場に混乱が生じている。日本に24%の「相互関税」を発動するなどしたわずか半日後に、トランプ大統領は一部の国・地域について上乗せ分を90日間停止すると発表。先行きが見通せない中、米国向けの輸出に携わる農林水産業者らにも動揺と困惑が広がっている。

 「今月の注文は1件で止まっている。これからどうなるのか……」。イカの加工品を米国に輸出している北九州市門司区の水産加工会社「フェニックス」の富永健康(たけやす)社長(66)は不安をにじませた。

 フェニックスは米国企業に持ちかけて近年販路を拡大しており、輸出の約3割が米国向けだ。出荷量が減れば経営にも影響するため、「トランプ関税」のニュースから目が離せないという。「政府の交渉次第なのかもしれないが、物価高に加え関税による値上げとなれば、米国消費が一気に冷え込むのではないか」と懸念する。

 ブリの養殖が盛んな鹿児島県長島町の東町漁協の関係者も気をもんでいる。東町漁協はブリの生産量「日本一」をうたい、輸出先の7割が米国だ。海外の日本食人気に乗って販路を拡大してきたが、降ってわいた関税問題に一気に雲行きが怪しくなった。販売事業部長の中薗康彦さん(58)は「商社からは特に連絡はない。まだ何とも言えないのだろうが、もし米国への輸出が滞るようなことになれば、国内へ振り向けるしかない」と頭を抱える。

 鹿児島県によると、養殖ブリの輸出額は2023年度は119億円で、約9割が米国向けという。県水産振興課の担当者は「出荷に影響が出たという話は聞いていないが、今後どう影響するか情報収集し、冷静に対応したい」と話す。

 近年、米国など海外での需要が急拡大しているのが抹茶だ。財務省の貿易統計によると、抹茶を含めた日本茶全般を指す「緑茶」の輸出額は10年前に比べて4倍以上になり、24年は過去最高の363億円に上った。

 全国有数の茶どころ、福岡県八女市の特産品・八女茶を世界40カ国に輸出する「大石茶園」にも動揺は広がる。急須で茶をいれて飲む習慣がない海外では粉末状の抹茶の人気が高く、米国が輸出先の1割を占める。これまで関税はゼロだったが、大石茶園専務の大石賢一さん(41)は「多少なりとも値段に反映されるはずで、買い控えが起きないか心配だ」と気をもむ。

 世界的な日本食ブームや円安などの影響を受け、「海外でもようやく日常的に飲んでもらえる商品になり、輸出額が伸びてきたところだった」と大石さん。「トランプ関税は正直我々でコントロールできるものではない。欧州など米国以外の販路を探し、売り上げを増やすことを意識するしかない」と話す。

 九州経済調査協会の河村奏瑛(そうえい)研究主査は「農林水産業は自動車産業と比べて関税による値上げを避けにくく、日本産品の価格競争力は落ちるだろう」と指摘し、「インフレと高い関税で米国消費が冷え込む恐れもあり、米国の外食産業で日本産品は厳しい状況に置かれるとみられる。日本側にできるのは行政や業界団体、金融機関による生産者への融資のほか、中長期的に米国以外の市場に目を向けていくことだ」と話す。【池田真由香、竹林静】

毎日新聞

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