<2脚2輪>バリアフリー比べてみれば…ソフト充実のドイツ、ハードは日本が圧勝

2025/11/06 10:00 

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 ベルリンの自宅近くの小児科へ夫と一緒に1歳の娘の健康診断に行った時のことだ。「またか」と夫と顔を見合わせた。建物に入るためのスロープが急だったからだ。私(記者、40歳)のベルリン赴任に同行してくれている夫・諏訪正晃(40)は車いすユーザーだが、上がるのに一苦労しそうだった。

 車いすユーザーがベルリンで困るのは、急なスロープだけではない。エレベーターが整備されていても故障していたり、乗るまでに階段があったりする場所は少なくない。夫はスロープ横の手すりをつかんでなんとか勾配を上がり、小児科にたどりついた。

 ベルリンの州の建築規定でバリアフリー化が求められているのは新築の建物のみだ。ドイツでは築100年を超えるような古い建物を使い続けることは普通だ。そのため行政機関や医療機関であってもバリアフリー化されていないことがある。

 一方で、日本では2000年代に法整備が進み、大規模な駅や商業施設などがバリアフリー化されるようになった。東京オリンピック・パラリンピックの開催も整備拡充の追い風となった。小さな診療所であってもほとんどの医療機関にスロープはある。「ハード面」は日本の圧勝だと思う。

 「夫だけで娘を医者に連れて行くのは無理かな」。そんな考えが頭をよぎる時もあるが、「たぶん大丈夫」とすぐに思い直す。ベルリンでは通りすがりの人が必ず助けてくれるからだ。この日の帰りがけにも、知らない男性が手を貸してくれた。ベルリンの人は気さくで、「手助け」という「ソフト面」では日本よりも充実していると感じる。

 以前、日本でバリアフリーについて取材をした際、「誰もが手を貸す社会であれば、バリアフリーは必要ない」という意見を聞くことがあった。それではベルリンでは、バリアフリーを今以上に進める必要はないのだろうか。

 ベルリン障害者協会の副会長で自身も車いすユーザーのヤン・カイナーさんは「手助けは素晴らしいが、自立して外出できるためには、バリアフリーが必要」と力を込める。カイナーさんが使っているのは電動車いすだ。バッテリーなどの重さがあるので、人と合わせて100キロを超えることもある。手助けは容易ではない。

 電動車いすユーザーの息子(20)を持つ、ベルリン在住の日本人女性にも聞いてみた。定期的に日本とドイツを行き来している。

 「困った時にさっと手助けしてくれるのはドイツ」。まず、女性はそう断言した。一方、介助者に付き添われることの多い息子が「1人で外出できそう」なのは、日本だという。

 理由は、そもそも「不便なことが少ない」から。エレベーターの故障もないし、車いすで入れるトイレも充実している。女性は「ソフトとハードのどちらかの充実を選ぶのなら、ハードを重視する」との結論だった。

 一方で、南部ミュンヘンに住む車いすユーザーのシーモン・ワインランドさん(38)は「ベルリンは都会なので手助けしてくれる人は多いが、地方だとそうはいかない。困っていても自分から頼めず、声をかけてもらうのを待っている障害者もいる」とハード拡充を支持しつつ積極的な手助けにも期待した。夫は「災害時など、本当に困った時に助かるのはベルリンのような社会かもしれない」と指摘する。

 ハードとソフト。ハードが大切なのは大前提だろう。しかし、ソフトも充実してこそ、二つが車の両輪となって社会を円滑に前に進めていくはずだ。【ベルリン五十嵐朋子】

毎日新聞

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