外交は成功 復興や国内融和は道半ば シリア・アサド政権崩壊1年

2025/12/08 00:00 

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 父子2代で半世紀以上にわたり、独裁を続けたシリアのアサド政権が崩壊してから8日で1年になる。

 暫定政権は積極的に外交を展開し、国際社会への復帰を進めるとともに、国内の融和を図っている。

 ただ、当初予想されたほどの混乱はないものの、宗派対立や隣国イスラエルによる侵攻、復興の遅れなど課題は山積している。正念場はしばらく続きそうだ。

 ◇「やっと本当の人間になれた」

 「圧政からの解放は、まるで日の出のようだった。やっと本当の人間になれた気がした」。北西部イドリブの教師、ムハンマド・アルアクラスさん(55)は語る。

 アサド政権は秘密警察を組織し、強固な監視国家を築いていたため、政治的な発言をすれば拘束される恐れがあった。

 2011年に内戦が始まると、今度は戦闘に巻き込まれる恐怖が加わった。だが、昨年12月にすべて終わった。「この1年間、暫定政権は内政、経済、外交ともベストを尽くしてきた。満足している」

 ◇難民100万人以上が帰還

 シリアでは今年1月、反体制派を率いたシャラア暫定大統領が就任し、3月には表現の自由などを定めた暫定憲法が制定された。

 10月には国会議員選も行われ、少しずつ国の形を整えてきた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、内戦では600万人以上が難民として国外へ流出したが、9月までに100万人以上が帰還している。

 シャラア氏が目指すのは、少数派を含めた「包括的な政府」の樹立だ。

 暫定憲法では少数派の権利を保障し、閣僚に女性やクルド人などの少数派も選ばれた。

 ◇少数派に対する虐殺も発生

 しかし、国内の融和は簡単ではない。

 3月には北西部ラタキアなどで、アサド政権の支持層とみなされたイスラム教少数派のアラウィ派に対する虐殺が発生。7月にも南部スワイダでイスラエルに近いとされる少数派ドルーズ派に対する虐殺があり、いずれも1000人以上が死亡した。

 政権崩壊後、多くのアラウィ派の住民が隣国レバノンに逃れて難民となるなど、新たな問題も発生している。

 ◇内戦で国内産業は壊滅的被害

 復興の遅れも課題だ。

 世界銀行の推計では、復興には日本の国家予算の3割に相当する2160億ドル(約34兆円)が必要とされる。だが、国内産業は内戦で壊滅的な被害を受けており、経済も低迷が続く。

 領土の統一も道半ばだ。

 暫定政権は旧アサド政権支配地域を統治しているが、北東部はクルド人勢力が広大な支配地域を確保。過激派組織「イスラム国」(IS)も潜伏している。クルド人勢力と対立するトルコ系の武装組織も北部の一部を支配しており、散発的な衝突も起きている。

 ◇制裁解除引き出し、国際社会に復帰

 一方、外交面では大きな進展があった。

 シャラア氏が2月以降、外遊を本格化させ、周辺諸国や大国との関係構築を進めてきたからだ。

 トランプ米大統領とは5月に初会談し、経済制裁の解除を引き出した。11月には、大統領として初めてホワイトハウスを訪問。国際社会への復帰を印象づけた。

 内戦下でアサド政権を支援したロシアにも10月に訪問し、プーチン露大統領と会談。「(アサド前政権との)全ての合意を尊重する」と伝え、かつての敵対関係を引きずらない姿勢を見せた。

 ただ、隣国イスラエルの動向は不安要素だ。

 イスラエルはアサド政権崩壊の混乱に乗じる形で、シリア各地の軍事施設を空爆。シリア側に越境し、南部の国境沿いを支配した。

 11月下旬には武装組織が「テロ攻撃」を計画していたとして、ダマスカスからわずか約40キロの村で軍事作戦を実施。住民ら十数人を殺害した。

 イスラエルが今後も支配地域を広げ、軍事作戦を繰り返せば、シリア国民の怒りが増すのは必至だ。暫定政権は水面下でイスラエルとの協議を進めているが、イスラエルは国境沿いの「非軍事化」を要請しており、先行きは見通せない。【イドリブ(シリア北西部)で金子淳】

毎日新聞

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