絶滅危惧種の「チドリ」守れ 兵庫・淡路島で住民らが保全活動

2025/03/22 07:15 

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 兵庫県・淡路島の砂浜に生息する鳥「チドリ」。百人一首で詠まれるなど島のシンボルとして親しまれたが、近年は環境の悪化で絶滅の危機にさらされている。共存できる環境をつくろうと、地元住民らが3年前から保全活動に取り組んでいる。

 「ゴン、ゴン……」。3月中旬。淡路市浦にある「道の駅東浦ターミナルパーク」付近の砂浜で、押し寄せる波の音と共に低く鈍い音が響く。男女4人が砂浜に約40本のくいを打ち付けていた。

 活動するのは有志団体「淡路島ちどり隊」だ。2022年1月から活動を始め、メンバーは約30人。島内の小学生や農家、個人事業主がチドリの保全活動を続ける。

 チドリの一種「シロチドリ」(体長約18センチ)は4~8月の繁殖期、砂浜に直接卵を産む。この日はシロチドリが安心して産卵できるよう、営巣エリアに人が立ち入らないためのくいを打った。

 約40分の作業が終わった頃、「ピピピ……」という鳴き声がした。双眼鏡で見渡すと、シロチドリ4羽が波打ち際を歩いたり海上を飛んだりしている。記者が慎重に近寄り、その姿をカメラに収めると、「初めてで撮れる機会はなかなかないですよ」とメンバーが声をかけてくれた。

 淡路島には、シロチドリと「コチドリ」(同約16センチ)の2種類が生息する。どちらも灰色の背中と白い腹部が特徴で、冬毛になると丸々としたフォルムが愛らしい。すみかとする砂浜の虫や甲殻類を餌とし、天敵のカラスから海浜植物の陰で身を隠す。

 百人一首では「淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守」と詠まれており、かつては多くが生息していたことがうかがえる。淡路、洲本の両市は「市の鳥」に制定している。

 だが、近年はチドリが住む環境が脅かされている。埋め立て工事で砂浜が減っていることに加え、多くの人が海水浴やバーベキューで訪れるように。砂浜に車ごと乗り入れる人もいる。

 その影響で、人を警戒したチドリが抱卵を中断して巣を離れ、卵が踏み潰されるケースがある。捨てられたごみに群がるカラスがヒナや卵を襲うこともあるという。

 生息数は全国的に減少している。シロチドリは12年、環境省のレッドリストで絶滅の危険が増大している「絶滅危惧Ⅱ類」に分類された。県のレッドリストでも13年、絶滅の危機にひんし、緊急の保全対策が求められる「Aランク」とされた。

 隊長の原彩菜さん(37)は札幌市出身。植物やガーデニングを学ぼうと、20年に県立淡路景観園芸学校(淡路市)に入学した。海岸の環境保全について研究していた際、チドリと出会った。

 「産卵時の砂のくぼみにうずくまる姿がイメージと違ってかわいらしく、会ってみたくなった」と振り返る。だが島内の砂浜を巡って生息状況を調べると、約30羽しか見つけられなかった。

 1969年には約90羽が観察されたとのデータがあるという。半世紀で3分の1になった状況に「このままだといなくなってしまう」と危機感を募らせ、修士論文のテーマとした。

 環境保護に力を入れる地元住民も「守りたいけれど、どうすれば」と不安視していた。そこで、連携して保全のノウハウを築き上げようと、同学校でも指導する藤原(ふじはら)道郎・県立大大学院教授(景観生態学)らと「ちどり隊」を結成した。原さんは修了した今、住んでいる北海道石狩市から2カ月に1度のペースで島に通う。

 ちどり隊は生息状況も調査する。23年度の越冬期(12~3月)を通したシロチドリの個体数は平均して26羽確認できたが、21年度と比べて6羽少なかった。また23年は卵52個が産卵されているのに対し、ふ化して巣立ったヒナは6羽のみだった。

 環境保全の大切さの啓発にも力を入れる。島内の小中学校5校で環境学習の一環として出前授業をしてきた。南あわじ市の慶野松原海水浴場近くにある市立西淡中学の生徒には、24年夏の調査に同行してもらった。

 島内の海水浴場などには、シロチドリの絵と「巣の近くに近寄らないようにして」というメッセージを書いた看板を立て、訪問客らにも理解を求める。だが、保護エリアの目印とするくいが引き抜かれたという情報が寄せられたこともある。

 原さんは「海水浴や開発事業などで海を利用したいという気持ちも分かる。けれど、そこにしか生息できない鳥がいることを知ってもらい、チドリが生き残れるよう配慮の気持ちを持ってもらいたい」と、チドリと人間が共存できる環境づくりを訴えている。【山本康介】

毎日新聞

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