小学校へ一度も通わずフリースクールへ 「積極的不登校」という選択
学習指導要領に縛られず、独自のカリキュラムで民間が運営するフリースクールは一般に、不登校の子供を支援する場と考えられている。一方、子供の個性を伸ばそうと、正規の小学校に一度も通わせないまま、米国やオーストラリアなどの先進的な教育手法を取り入れたフリースクールを選ぶ保護者たちがいる。「積極的不登校」とも呼ばれる選択肢の現状を追った。
◇「積極的不登校」実現のために移住も
東京都中野区の「東京コミュニティスクール」(TCS)は少人数教育を掲げるフリースクールの一つだ。小学校1~6年に相当する各学年で9人まで受け入れる。一つのテーマを掘り下げる探求学習に力を入れ、学年を超えて多彩な活動に取り組む。豪州で従来の小学校とは異なる手法で運営される「オルタナティブスクール(もう一つの学校)」に感銘を受けた実業家の久保一之さん(58)が2004年に設立した。
当初の児童数は3人だったが、次第に入学希望者が定員を上回るようになり、現在は50人の児童が在籍する。そのうち98%が小学校の入学段階からTCSに通っている。
久保さんによると、保護者の考え方の変化が背景にあるという。「既存の学校教育では子供が自分らしさを出せず、学びの意欲を奪われてしまうという危機感を持つ親が増えてきた」と話す。
TCSは学校教育法で定められた「学校」ではない。児童らは居住地の小学校に学籍を置き、TCSの学習状況を報告するなどして、小学校で卒業を認められている。しかし、学籍を巡ってトラブルになるケースも少なくないという。
同区の会社経営、川井淳司(あつし)さん(46)は2年前、小学校入学を控えた長女藍央(あお)さん(8)に地元の公立校を含む3校から、通いたい学校を選ばせた。「子供に合った教育を受けさせたい」と考えたからだ。藍央さんはTCSを選んだ。
しかし、川井さんが当時住んでいた区の教委にTCSへ入学させる意向を伝えると、「小学校で不登校になったら通わせる場所だ。就学義務違反になる可能性がある」と言われた。対応に失望した川井さんは中野区へ移住。小学校の理解を得て、藍央さんは学籍だけを置いて一日も通わず、TCSで学んでいる。
藍央さんは「朝の会で自分の思っていることを言い合えたり、みんなとキャンプに行ったりするのが楽しい。他の学校に行きたいとは思わない」と話す。川井さんは「不登校にならなければ、公教育以外の選択を認めないという考えは子供の幸せにつながらない。さまざまな選択肢から教育を選べる社会になってほしい」と願う。
最初から不登校を選ぶことは「積極的不登校」とも呼ばれる。
一方、幼稚園で他の子供とのトラブルが多いなどの理由で、親が「公立小学校への適応は難しい」と判断し、TCSを探しあててくる例も少なくないと、久保さんは言う。「積極的不登校という言葉でくくるのは乱暴で、やむを得ない消極的な選択という側面もある」と説明する。
一方、年間の学費は約100万円だ。公的な支援は限られ、保護者の負担は大きい。
◇「不登校」への理解が進む一方で
文部科学省によると、不登校の小学生は23年度に13万370人と過去最多に上り、11年連続で増えている。積極的不登校の統計はないという。
不登校の増加を受け、17年に施行された教育機会確保法は「不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」について明記し、国や自治体に必要な支援を求めた。フリースクールに通うための助成金を支給する自治体もある。
しかし、積極的不登校への理解は進んでいない。久保さんは「確保法が施行されてから、『不登校支援』が前面へ押し出されるようになった。積極的不登校は不登校ではないとして、風当たりが強くなったと感じる」と指摘する。
文科省の担当者は「フリースクールは法的な質の担保がされておらず、学校と同等のものと評価することは難しい。不登校の場合は就学義務を果たしたくても難しい状況にあるので、フリースクールは学びを保障するための選択肢の一つになる。しかし、そうした事情がないのに、最初から選択することは就学義務違反になり得る」と話す。
◇子供が学校を選べるように
東京都港区の「ギフトスクール」は、異なる年齢の子供たちが障害の有無などに関係なく共に学ぶ米国の小規模校を参考に、21年に設立された。18人の児童の半数程度が小学校の入学段階から通っている。
代表の富田直樹さん(42)の長女(9)も同様の選択をしたが、当初は公立小に学籍を置くことを拒否されたという。話し合いを重ね、娘と学校へ面談に行くという条件で認められた。自治体や学校によって対応が異なるのが実情という。
富田さんによると、「公立校では適応できないのではないか。不登校になる前に通えそうなスクールに行かせたい」と考える保護者は多いという。「『とりあえず公立校に一回入ってみて、駄目だったら他の場所を考えたら?』というのは乱暴なシステムで、子供が傷ついてからでないと、多様な学びが認められないのはおかしい」と疑問を呈する。
さらに、保護者の経済的負担が大きい現状についても「義務教育は平等が大前提なのに、金銭的な余裕のある人しか通えなくなっている」と指摘する。
米国発祥の教育手法を取り入れた神奈川県茅ケ崎市の「湘南サドベリースクール」の卒業生で、現在はスタッフを務める沼澤結宇(ゆう)さん(25)は、積極的不登校について「体験入学を経て、子供の希望を確認した上での入学になる。親が小学校に通わせていないのではなく、子供が学校を選び、親が同意している状態で、就学義務に違反しているとは思わない」と話す。
さらに「将来的に子供が自分の通いたい学校をもっと自由に選べる社会になれば、『不登校』という言葉もなくなるのではないか」と期待を込めた。【村瀬優子】
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