広島・高齢女性殺害3カ月 捜査難航 山あい地区、防犯カメラ少なく

2025/09/24 18:04 

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 中国地方の山あいにある民家で、独り暮らしの高齢女性が何者かに殺害される事件があり、24日で遺体発見から3カ月となった。近年の事件捜査では、複数の防犯カメラ映像をたどる「リレー捜査」が容疑者特定の決め手となるケースが目立つが、今回の事件現場は周辺に防犯カメラが少なく、目撃情報が乏しい。警察は50人態勢で聞き込みなどを続けているが、捜査は難航している。

 「優しくて、おとなしくて恨まれるような人ではないのに……」。9月中旬、近隣に住む第一発見者の女性(83)はそう語ると肩を落とした。

 殺害されたのは、広島県庄原市東城町粟田の矢吹定代さん(当時84歳)。6月24日午後5時半ごろ、女性は矢吹さんの親族から安否確認を頼まれ、無施錠だった勝手口から入った。すると、玄関付近で矢吹さんが頭から血を流して倒れているのを見つけた。

 数日前、回覧板を渡すために女性宅に訪れた矢吹さんと何気ない会話を交わしていた。近所づきあいは60年近くに及び、遠目に見える矢吹さん宅からはいつも、午後10時ごろまで光が漏れていた。「真っ暗でさみしい気持ちが続いている。犯人は早く捕まってほしい」と語る。

 広島県警によると、矢吹さんの死因は失血死で、頭や顔を硬いもので殴られたような痕が複数残っており、強い殺意があった可能性がある。室内に目立って荒らされた形跡はなかった。県警にはこれまでに約60件の情報が寄せられているが、有力な手がかりにはつながっていないとみられる。

 さらに、捜査が難航している要因の一つが、防犯カメラの設置箇所の少なさだ。

 都市部では、駅などの公共施設に加え、店舗や個人宅など至る所に防犯カメラが設置されている。事件が発生すれば、犯行現場とその周辺に設置されている複数の防犯カメラを次々につなぎ合わせ、犯人の足取りを追跡する「リレー捜査」が強力な手法になる。

 実際、今年4月に広島市に隣接する広島県府中町の森林公園で50代男性が殺害された事件では、県警が防犯カメラなど約620カ所、計約3400時間分の映像を収集。約2カ月後、16~18歳の男女3人を強盗殺人容疑で逮捕した。現場周辺の防犯カメラには、事件前後で3人の姿が映っていたという。

 一方、島根、鳥取、岡山の3県に隣接する庄原市は、大阪府全体の3分の2もある広大な面積に3万人ほどが暮らす中山間地域。特に事件現場となった粟田地区は、市中心部から離れていて、店舗はなく、日中でも人通りがほとんどない。都市部と比べて防犯カメラの設置状況は格段に乏しく、リレー捜査は困難で、捜査幹部は「昔ながらの聞き込み捜査に頼るしかない」と語る。

 事件を受けて、庄原市は国道近くや県道沿いに防犯カメラを新たに2機運用開始。さらに、9月の市議会定例会では補正予算で3機の増設費用を計上した。事件後、住民の間でも防犯カメラの設置を検討する動きはあるが、事件現場の近くに住む佐々木伸芳さん(74)は「防犯カメラがあったらこんな事件は起きなかったかもしれないが、地域は高齢者が多くて、設置費用の準備や管理は負担が大きい」とため息をつく。

 防犯対策に詳しい総合防犯設備士の高尾祐之さんは「防犯カメラの設置環境が乏しい地方の弱点を狙い撃ちされたような事件だ」と語り、「地域には都会と違って近所づきあいという強固なセキュリティーがある。普段のあいさつに加えて、鍵を複数つけるなど管理が比較的簡単な対策を組み合わせて、地域の防犯意識を向上させることが重要だ」と指摘した。【安徳祐】

毎日新聞

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