元国後島民、「追い出された」古里を思う 80年過ぎても色あせず
「名簿を作る時、間違えた」
名簿とは、終戦後に北方領土から元島民が北海道の函館港に引き揚げた時に乗った船の乗船名簿のことだ。
普段はしっかり者の父が函館に到着した1948年に発した一言は意外だった。
元国後(くなしり)島民の土田一三(かずみ)さん(91)は77年後の今年、その意味を知った。
今年6月下旬、占冠(しむかっぷ)村に住む土田さんを訪ねた。
土田さん一家は48年9月、引き揚げ船で函館に到着した。
今年見つかった乗船名簿には、確かに一家4人の名前があった。
ところが、土田さんの性別は「女」と記されていた。「先に島を出て根室市にいた姉のことを考えていたのだろうか」
土田さんらの名前には訂正した跡もあった。
気が動転していたかもしれない父に思いをはせていた。
土田さんは島での生活を「楽ではなかった」と振り返る。
名簿の父の職業欄には「屋根業」とあった。
丸太を切って家屋の屋根に乗せ、くぎを打ち込む仕事で家計を支えた。
春は山菜採り、夏はコンブ採取、秋はジャガイモの収穫やサケの捕獲――。
子どもたちも「遊び半分」で参加する「自給自足」の生活だった。
そんな日常はソ連軍による45年9月の島への侵攻で一変する。
自力脱出する人も多かったが、船がなかった一家は島にとどまった。
48年8月にはロシア船で島から強制退去させられ、樺太(からふと)(現ロシア・サハリン州)の収容所に約2週間滞在した。
テント一つ当たりに収容されたのは50人ほど。人が隙間(すきま)なく横になった。
そこで母が持病のぎっくり腰を再発してしまった。
「どうしよう」。10代だった土田さんは、ソ連軍の目を盗んで湿布代わりにヨモギの葉を探し、校庭の脇からむしり取ったという。
函館に向かう船の出発日、腰痛の母を連れ、土田さんは重さ30キロほどの荷物を背負って船に向かった。
歩みは遅く、ソ連軍から「早く行け」と銃の柄で何度もお尻をつつかれたことを覚えている。
息もきれぎれの母から「先に行け」と言われたが、母を置いて行くわけにはいかなかった。
船が視界に入った時を思い起こし、「あのときは泣けた」とつぶやいた。
土田さんは当時を振り返り、元島民が「引き揚げ」と呼ばれてきたことを挙げ「自分たちは古里を追い出されたんだ」と語気を強める。
「先祖が良い場所にしてくれた国後がどんな島だったか、知ってほしい」
今も返らぬ古里への思いは、80年がたっても色あせていなかった。【森原彩子】
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