甘くて丸い「マーブルガム」 ビー玉みたいな形になった意外な理由

2025/11/21 15:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 四角い箱に入っている「マーブルガム」は、駄菓子屋さんで定番のフーセンガム。オレンジやグレープなどフルーツの絵がレトロでかわいい。甘くて丸い形のガムは、かむと何だか元気が出る。味もパッケージデザインも子どものころから大きく変わっていない気がするけれど、あれ、こんな大きさの箱だったっけ? 製造・販売する丸川製菓(名古屋市西区)に聞いた。

 ◇夢も膨らむ「子どもスイッチ」

 定番のオレンジの「マーブルガム」を、駄菓子屋さんやスーパーなどで探してみた。子どものころから知っている4粒入りの箱だけでなく、箱が横長の6粒入りもある。100円均一ショップでは、8粒入りで3箱よりどり100円の商品もあった。6粒入りが25個入った大きな箱も発見! 並べてみると面白い。

 開封すると、6粒入り(税抜き20円)の箱の内フラップには「あたり」や「はずれ」が書かれているが、4粒入り(同15円)にはない。「1箱で販売している4粒入りは当たりなし、6粒入りは当たり付きです」と、丸川製菓企画課の森学さんが教えてくれた。

 もともと「あたり」が出れば買ったお店でもう一つもらえたが、対応できる駄菓子屋さんなどが減少。そこで「あたり」がない商品も作り、スーパーやコンビニエンスストアなどで販売しやすいようにした。それにしても、物価高騰の今、1箱15円とはありがたい。材料の大量仕入れや工程の自動化などの努力を重ね、低価格を維持しているそうだ。

 売り場やニーズに合わせて袋やボトル入りの商品も展開。数種類のガムを組み合わせたセット商品は「オレンジ」「グレープ」「いちご」などの定番以外に、「コーラ」や「りんご」などの味もある。過去にはサクランボ味や抹茶味もあった。思っていた以上に、バラエティー豊かですね。

 丸川製菓は1888年創業。最初はあめや落花生のお菓子などを手がけていた。ガムの製造を始めたのは、戦後間もない1947年。当時社長だった川島好雄さんが、街でガムをかんでいる進駐軍の姿を見かけ、ガム業界に光を感じた。「背水の陣で、それまでの事業で蓄えていたものを、すべてガム作りに注ぎこんだそうです」と、川島さんの孫にあたる代表取締役の田中依子さんは語る。同時期、ガム業界には愛知県だけでも70社ほどが参入。厳しい競争にさらされたが、丸川製菓のガムは味の良さで子どもたちの心をとらえた。

 「マーブルガム」の誕生は59年。新しい形のガムを作りたいと考え、当時コーテッドと呼ばれていた長方形の糖衣ガムの製造に着手した。しかし、どうしても丸くなってしまう。「それなら丸いガムを作ろう」と発想を転換。以前に作っていた和菓子のノウハウも生かしながら、丸い形のガムを完成させた。その形とやさしい口当たりが、子どもたちに受けた。

 ちなみに、もともとマーブルは英語で「大理石」のこと。「昔はビー玉やおはじきが大理石で作られていたことから、丸い形をマーブルと呼ぶようになったと伝え聞いています」と森さん。

 ◇世界各国で人気者

 丸川製菓のガムは世界に輸出されている。輸出を始めたのは、「マーブルガム」誕生と同じ59年。ずいぶん前から輸出されているんですね。何だか意外。「売り上げの2、3割は海外向けなんですよ」と田中さんは明かす。サウジアラビアなどの中東地域が一番多いが、アジアや米国など世界各国に出荷されている。

 田中さんは、子ども時代をインドで過ごした人から、丸川製菓のガムを「散髪屋さんでもらった」と聞いたことがある。最近では、インバウンドで中東から来た外国人が「聖地巡礼」とばかりに、本社に訪ねてきたこともあった。

 海外向けの商品もある。熊のキャラクターが描かれたブロック状のガムは、ロングセラーの「フィリックスフーセンガム」と同じイチゴ味だが、少し甘くしている。描かれている熊のキャラクターに名前はあるんですか? 「特にはないですが、『チャッピー』など、いろんな名前で呼ばれているようです」と田中さん。「フィリックスフーセンガム」は真ん中のへこんだところで割って、友達と半分こしたけど、海外の子どもも同じように楽しんでいるのかな……。

 会社として大切にしているのは「誠実に」「フェアに」ということ。「日本はもちろん、世界の皆さんに愛される商品を、誠心誠意、真心を込めて作り続けていきたい。そして、世界の子どもたちにおいしさを伝えていきたいです」と田中さんは話す。パッケージのサイズや味など多様なニーズに配慮しつつ、子どもでも手が届きやすい価格を守っているのは、すべてそこにつながるんですね。

 田中さんは「丸川のガムは、日本人なら誰でも童心に返る『子どもスイッチ』ですね」と知人に言われたそうだ。「これからも、もっと広く長く愛されて、世界の人たちの『子どもスイッチ』になれたらうれしいです」とほほえむ。国籍や年齢に関係なく、コミュニケーションと笑顔を生む「スイッチ」に――。夢、膨らみますね。【水津聡子】

 ◇面白さもかみしめて

 食べると口の中に色が付く「青べ~」「緑べ~」などのガムは、1997年に発売。定番商品だが、近年交流サイト(SNS)などで口の中の色が変わった様子が投稿され、注目を集めている。

 「すっぱいレモンバーガム」は、その名の通りレモン味の酸っぱいガム。「このガムはとてもすっぱいのでニガテな子はきをつけてね!」という注意書きまで付いている。食べてみると、目が覚めそうな酸っぱさ。でもこれが中国では類似品が出るほど大人気なのだという。ガムの多彩な面白さも、しっかりかみしめました。

毎日新聞

社会

社会一覧>

写真ニュース