収穫よりも大きな喜びって? 育てた野菜の販売実習、消費者と対面
滋賀県米原市が新規就農を検討する人に開く「まいばら農業塾」に50代の毎日新聞記者が入塾した。塾での体験を伝える連載「おいちゃん記者、鍬(くわ)を持つ」の10回目。【長谷川隆広】
農業には二つ大きな喜びがあるのだなあ。収穫時期を迎えてしみじみそう感じた。一つは既にこの連載で書いた、丹精込めて育てた野菜を収穫し、味わう喜び。そしてもう一つは人に食べてもらう喜びだ。「おいしい」の一言が聞けた日にゃ、もううれしくて。収穫の喜びより案外こちらの方が大きいかも。
まいばら農業塾に入って、楽しみにしていた講習がある。自分たちが作った野菜を対面で売る販売実習だ。収穫から出荷調整、値付け、販売まで学ぶ。見ず知らずの人に買ってもらえるのか。作り手にとって、こんなにわくわくする場はない。
実習場所は、米原市宇賀野にある道の駅「近江母の郷」。22日、午前中限定で敷地内に立てたテントが売り場だ。スタッフが「新鮮‼」「はじめての野菜づくり」「楽しく農作業」とポップが付いた立て看板を用意してくれた。「楽しく」には苦笑したけれど、みんなおそろいの法被を着て、意気揚々と売り場に立った。
戸惑ったのは値付け。農業をするなら本来、生産時からコストを意識しなけりゃいけない。でも、まだ栽培にしか頭が回っていない。いざ、商品となる野菜を前にすると「はて、どうしたものやら」。同期生同士で顔を見合わせた。スーパーで市場調査をしておくべきだったな。とりあえず200円のシールをペタペタと。隣で市農政課の関沢匡司さんがうーんと首をひねっている。道の駅の野菜直売所を見てきたら、ってアドバイス。すると、我々が200円と値付けした野菜と同程度のサイズのものが120円で売られている。あらら、それより値段を下げなければ売れないよね。という訳で、ほとんどの野菜を100円に。実習なのでとりあえず採算は度外視ということで。
いよいよ販売開始の午前9時。既に行列、というほど甘くはなかったけれど、順調な滑り出し。対面販売は買い物客の顔が見えるのがいい。いらっしゃい、いらっしゃい。カブにダイコン、ハクサイ、キャベツ。採り立て野菜をそろえてます。日野菜もね。全部、私たちが作ったものですよ。これぞまさに生産者の顔が見える、だ。
私の前に立った年配の女性が「あなたたちが作ったのね」とにこにこしながら、ダイコンを買ってくれた。ありがたい。受け取ったのは100円玉1枚。これまでの苦労を考えると、これがダイコンの正しい対価なのかどうかは分からない。ただ、自分たちで作った野菜にお金を払ってもらえたことが素直にうれしかった。
ほとんど途切れることなく野菜が売れた。伊吹大根に興味を示した人には「辛みがあるのでおろしそばにどうぞ」。白カブ(スワン)を手にした人には「柔らかいですし、いかようにも料理してもらえます」。「おでんにするならどれがいい?」には「煮物ならこちらのダイコン(三太郎)が向いてますよ」。うろ覚えの知識を駆使し、できる限り野菜の魅力を伝えたつもり。日野菜の食べ方を聞かれて「浅漬けにして食べたらご飯が止まりませんでした」と実体験も。日野菜は数本入りの袋が200円と強気の値付け。売れてほっとした。
1時間半ほど販売を担当した後、農園で出荷作業をしていた別班と交代。こちらはこちらで次々に追加を求める連絡が届き、大わらわ。結局、袋入りも含めて販売数は163に。野菜の個数だけで言うともっと多い。昨年2期生の95を超え、売り上げは2万円近く。せっかくなら食べた感想を聞かせてもらいたかったなー。
代わりに、お裾分けした会社の同僚たちが感想を送ってくれた。「どんどん口に入っていく」「うまい。みずみずしく張りがある」「ずっしり重い」「もうスーパーでは買えない」など。気を使ってくれたのかも。それでも、農業をする者にとって、これが何よりのエール。さあ、また頑張ろう。
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