地震被害の青森・むつ総合病院、9年前に耐震不足判明も対応に遅れ

2025/12/11 20:30 

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 青森県沖を震源とする地震で被災し、入院患者が転院を余儀なくされた「むつ総合病院」(同県むつ市)は、9年前に耐震不足が判明するなど老朽化が進んでいた。現病棟に代わる新病棟の建設が検討されていたものの、物価高騰のあおりなどで3月に白紙撤回され、施設の改善が遅れるさなかに被災した。

 8日夜の地震で青森県内は、八戸市で震度6強、むつ市で同5強を観測した。

 むつ総合病院では、入院病棟でスプリンクラーが故障し3フロアに浸水。80床が使えなくなり、自衛隊などの支援を受けて入院患者36人を転院させた。通院している男性(79)は「この辺で一番大きな病院。機能しなくなれば地域住民の健康に極めて深刻な影響が出る。不安だ」と話す。

 同病院は下北半島の医療を担う一部事務組合下北医療センター(管理者・むつ市長)が運営し、約300床が稼働。一般病棟は完成から半世紀近くが経過している。国の基準に基づく2016年の耐震診断では「震度6強から7程度の地震で倒壊の恐れがある」ことが判明した。

 このため、新病棟建設に向けた基本構想・設計が策定された。だが、医療資材価格や人件費の高騰などの影響で建設費用が当初の190億円から415億円に膨らみ、今年3月、入札中止が決定。耐震改修か新病棟の規模縮小かといった今後の方向性に関する調査が続いている。

 また、むつ市は使用済み核燃料の中間貯蔵施設を抱え、近隣には東通原発(同県東通村)などもある。同病院は災害拠点病院や原子力災害医療協力機関に指定されており、今年7月には、市長らが国に病棟整備支援を要望していた。

 同病院によると、今回の地震の数カ月前にも給水管が壊れ、1階と地下が水浸しに。不具合のある空調やボイラーなどの設備をできる範囲で修繕しながら運営していたという。24年度に約6億8000万円の赤字を計上するなど経営難もあり、職員は「施設はどこが、というよりすべてが悪い状況」と訴える。

 医療政策に詳しい鹿児島大の伊藤周平教授(社会保障法)は「災害拠点病院は地域医療の要。率先して耐震化を進め、耐震化率は100%を目指すべきだ」と指摘。そのうえで「物価高騰などで病院経営は厳しい状況が続き、特に過疎地域の公立病院経営は厳しく、自治体だけで賄うのは限界がある。国は柔軟な診療報酬の引き上げや補助金などで医療提供体制を整える責任がある」と語る。

 厚生労働省の23年の調査によると、病院の耐震化率は全国で80・5%。都道府県別では京都府(68・8%)が最も低く、福島県(69・8%)や和歌山県(71・1%)、大阪府(72・9%)なども7割前後にとどまった。青森県は86・5%だった。【上東麻子、足立旬子】

毎日新聞

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