「船の体育館」解体工事の議案可決 香川県議会 有志団体は提訴
丹下健三設計で「船の体育館」と親しまれてきた旧香川県立体育館(高松市)について同県議会は11日、県が提出していた8億4700万円の解体工事請負契約の議案を可決した。民間有志団体から、公費負担のない耐震改修・再生活用策が提案されており、県との間で具体的な協議がされていないことに一部議員から疑問の声が上がったが、議論は広がらなかった。【森田真潮】
◇「倒壊の危険」評価に食い違い
この日の本会議では議案について、文教厚生委員会の岡野朱里子委員長(自民党香川県政会)が「原案の通り可決すべきものと決した」と報告。植田真紀議員(立憲・市民派ネット)が「安全性の判断が分かれるのであれば第三者による検証を行うべきだ。再生案について検討すらしないのは理解できない」などと反対討論した。採決の結果、賛成多数で可決された。
県議会では9日、再生案を発表した建築家らの民間有志団体「旧香川県立体育館再生委員会」(長田慶太委員長)との具体的な協議に応じない理由をただした植田氏の一般質問に対して、池田豊人知事が「(再生委は)旧体育館が地震時に倒壊する危険は想定されないとしており、安全性等に関して懸念があると判断した」などと答弁していた。
また、植田氏ら県議4人が11月28日、再生委メンバーらの意見を聞くため、県議会文教厚生委員会への参考人招致を求める要請書を谷久浩一議長や岡野文教厚生委員長宛てに提出した。しかし、12月2日の文教厚生委で賛同者はなく、要請は否決された。
同委員会で県教委の淀谷圭三郎教育長は、建物の現況や建設当時の技術力について写真や動画、3次元データ、関係者からの聞き取り調査などで記録保存を進めていることを説明した。
◇再生委は提訴「立ち止まれなかったのかを明らかに」
一方、再生委側は、県側との具体的な協議が実現しないことから、11月26日付で池田知事を相手取り、解体工事に関する公金支出の差し止めを求めて高松地裁に提訴した。訴状で「県が倒壊の危険を今になって殊更強調するのは、解体を強行するための方便であると言わざるを得ない」「2012年の耐震診断でも大きな危険は示されていない」などと主張している。
県議会の議決を受けて再生委の長田委員長は「県はここまで、耐震診断促進法に基づく診断結果を根拠に、一度も立ち止まることなく解体工事契約の手続きを終えてしまった。本当に立ち止まることができなかったのか、裁判を通じて明らかにしていきたい」と話した。
◇県と再生委、具体的協議に至らず
旧体育館については7月に再生委が、全額民間資金で取得し、耐震改修したうえでホテルなどとして活用する案を発表し、県側に協議を求めた。しかし、県側は「具体的な主体や計画等は明確になっていない」などとして応じなかった。
再生委は8月に2回目の記者会見を開き、元日本建築学会会長の斎藤公男・日本大名誉教授らが「建物全体が直ちに倒壊する危険は想定されない」「現在では(県が解体の根拠としている耐震診断結果が出された)2012年当時よりも精密な構造解析により、合理的な耐震補強の提案が可能」などの見解を示した。
8月と9月の2回、県側の担当者が再生委の長田委員長らと非公開での面談に応じたが、具体的な協議の場は設けられないまま、県は解体工事の入札手続きを進めた。
11月には再生委が、解体に向けた手続きを進める県や県教委に再考を求める4万9247筆の署名を提出した。
◇代々木競技場と“兄弟作”
丹下健三が設計を手がけた旧県立体育館は、和船のような特徴的な外観で1964年完成。ケーブルで屋根をつり下げるつり屋根構造で柱のない大空間を実現している。タイプは異なるが、同年に完成した同じく丹下建築の代々木競技場(東京都渋谷区)=国重要文化財=と共に、日本最初期のつり屋根構造の建造物だ。
2014年に耐震改修工事の入札が不調に終わり閉館。21年には県教委が「サウンディング型市場調査」で民間事業者から活用・改修案を集めたが、県の財政支援なしでは持続的な運営が難しいとして採用には至らなかった。県と県教委は23年に「苦渋の決断」などとして解体方針を表明。25年8月に解体工事の入札を広告し、落札業者と10月に仮契約したうえで関連議案を県議会に提出していた。
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