DNA鑑定、遺骨収容から20年かかったわけ 厚労省の対象拡大奏功
太平洋戦争後のシベリア抑留中に死亡・埋葬された元日本兵とみられる遺骨について、厚生労働省がDNA鑑定したところ、徳島県出身の細川利男さんと判明した。細川さんの遺骨は23日、厚労省から県を介して同県美馬市に住む長女の青山誠子(さとこ)さん(86)に届けられ、細川さんは出征から80年以上の歳月を経て、愛娘の胸に抱かれた。
今回、肉親に届けられた遺骨が旧ソ連のトルクメニスタンで収容されたのは2002年夏。埋葬場所には「細川利男」と氏名が漢字で彫られた墓石もあったが、厚生労働省が遺族の依頼を受けて鑑定機関に検体を持ち込んだのは、23年だった。20年以上後になった訳は……。
◇墓石には「行年41歳」
厚労省によると、今回の遺骨は02年8月28日から17日間、政府派遣の遺骨収集団が、旧ソ連を構成していた共和国の一つで、カスピ海に面したトルクメニスタンのトルクメンバシ市内の埋葬地を訪れ、収容した3柱のうち1柱。3柱のうち2柱の埋葬されていた場所には墓石があり、うち1基の石は表に「陸軍伍長 細川利男之墓」、裏には「昭和弐拾参年参月八日死去行年四拾壱歳」(昭和23年3月8日死去行年41歳)と刻まれていた。
国は戦後、旧ソ連の抑留から帰国した元兵士らへの聞き取りから、細川利男さんというシベリア抑留中に亡くなった元兵士の存在は把握していたが、死亡場所はトルクメニスタンから北東約3400キロ離れたロシア連邦シベリア中部・クラスノヤルスクの病院で、死亡時の年齢も38歳という情報だった。
◇対象拡大の考え踏まえ
厚労省はDNA鑑定による遺骨の身元特定を、03年度に開始した。対象は遺留品や埋葬記録などのある遺骨だった。遺骨の人物と推定される氏名も「遺留品」と見なしていたが、細川さんの場合、死亡場所や死亡時の年齢といった情報が異なっていたため、「同姓同名」の可能性もあり、遺族へ連絡されなかった。
厚労省資料によると、03~23年度の21年間に実施したDNA鑑定5919件のうち、身元を特定した戦没者遺骨は1245件にとどまる。だが、遺族の高齢化も進んでいることなどから、21年10月からは遺留品などの手がかり情報のない遺骨についてもDNA鑑定を拡大した。
厚労省はこの考えを踏まえ、「同姓同名」の可能性はあったものの、細川さんについても娘の青山さんに連絡をとって検体の提供を受けたうえ、DNA鑑定を実施し、人定に結びつけた。【植松晃一】
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