創業108年、ススキノの駄菓子屋に幕 個性豊かな客に愛されて
札幌市の歓楽街・ススキノ。北海道最大の歓楽街の台所として親しまれる「すすきの市場」(札幌市中央区)にその店はあった。
1950年代に建てられたビルの照明は薄暗く、昭和レトロな雰囲気が漂う。
入り口をくぐると、1階の飲食関係者向けの鮮魚店や青果店の並びに、色とりどりのお菓子のケースが現れる。量り売りのかりんとうやせんべいが童心をかき立てる。種類が豊富な珍味や紙風船など懐かしい玩具も並ぶ。
1月31日。108年前からこの場所で営業を続けてきたとされている駄菓子屋「藤川菓子店」が最後の営業を終えた。市内最古の駄菓子屋とも言われた。札幌の老舗がまた一つ消えた。
「2人だからやってこられたんだよ」
店主の久家亮一さん(66)はしみじみと話す。昨年11月、一緒に店を切り盛りしてきた父の亮寿(すけとし)さん(当時96歳)が亡くなった。父亡き後、一人で店を続けるのは難しかった。昔ながらの駄菓子屋の経営は厳しく、客に閉店を知らせる期間を設け、店の歴史に幕を下ろすことを決めた。
◇常連客は飲み屋やスナックの関係者
店の起源は1918(大正7)年。初代店主の藤川文平さんが創業した。珍味の卸売業に携わっていた亮寿さんは、取引先だった2代目の藤川朗さんから「店を閉める」と聞かされた。市民に愛されていた店を残そうと、2002年に店を引き継ぐことを決めた。
常連客は、すすきの市場のビルの地下にある飲み屋や近隣のスナックの関係者が多い。観光客や親子がふらっと訪れることもある。
亮一さんは父と交代で店頭に立ち、近隣の飲食店などへ配達もした。
父が菓子店を引き継いだ当時、仕事を終えた多くのサラリーマンが喉を潤すためスナックに集まっていた。食事よりも、珍味や駄菓子が好まれていたという。
「優しく、人当たりがよかった」
亮寿さんは、よく客と立ち話をしていた。学生時代に樺太(現ロシア・サハリン州)にいた時の思い出を「タラバガニ食べ放題で楽しかった」などと懐かしそうに話すこともあったという。
◇ファン「もう食べられないと思うと…」
時代とともにスナックからは客足が遠のいていった。これと足並みをそろえるように、菓子店の客も減っていった。
ひいきのスナックから注文の電話が鳴らなくなり、閉店したと後で知ることもあった。時代の変化に寂しさも感じていた。
それでも根強い「ファン」が菓子店を支えてきた。
ファンの一人、札幌市北区の事務員、米内裕子さん(68)は週1、2回のペースで店に通っていた。お目当ては大福餅。「ここの大福をお餅の代わりに鍋料理に入れると、外側がもちもちで甘じょっぱくて絶品」と太鼓判を押す。
「もう食べられなくなると思うと、自分も一緒に生涯を閉じたいくらい。それくらいの食べ物にはなかなか巡り合えない」。閉店を惜しむように、店内を眺めていた。
「気合の一杯」代わりにパック牛乳を買う飲み屋のマスター、仕事の合間にチューインガムを求める魚屋の店主――。
酔っ払いに絡まれるのも日常茶飯事。ススキノならではの個性豊かな客ばかりだった。「利益は関係ない」と、希望があれば個人のためだけに仕入れる商品もあった。
昨年11月8日、いつものように店に出勤した亮寿さん。顔色が悪かった。帰宅した後、救急車で病院に運ばれ、亮寿さんはその日のうちに帰らぬ人になった。店と共に23年。最後まで店と歩んだ人生だった。
亮一さんは振り返る。
「20年間いろいろあった。大変なこともあったけど、楽しかったんじゃないかな」
父との二人三脚の日々と客への感謝を胸に、最後の日を迎えた。【森原彩子、伊藤遥】
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