少女は14歳だった 死と隣り合わせの歌舞伎町で過ごした1カ月

2026/02/02 16:00 

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 秋が深まった2025年10月の夕刻、東京・歌舞伎町で1人の少女がビルから落ち、亡くなった。14歳だった。

 「心中デートしまーす」

 亡くなる数時間前、少女はインスタグラムにそう書いた。

 歌舞伎町は、「死」につながりかねない危険が日常と隣り合わせにある街だ。少女にとっては、そうだった。

 彼女を知る人を探すと、幾人かから聞くことができた。

 居場所にした「トー横」の仲間、市販薬の過剰摂取、「推し」。それと亡くなる前日まで彼女を案じ続けた家族の存在を――。

 周囲には本名を名乗っていた少女を、ここでは仮に「ユナ」と呼ぶ。

 その最後の日々をたどった。

 ◇隣で泣いた少女「まさか本当に……」

 ビルは、人の流れが絶えない歌舞伎町の外れにある。1階に飲食店が入る、オートロックのないマンション。10月13日の暗くなった頃、ユナはその8階から飛び降りた。

 下を歩いていた20代の男性にぶつかり、路上で動かなくなった。男性は頭を打って重傷を負った。

 近くの飲食店の男性店員(46)が言う。

 「倒れていた子は頭から血を流していて、救急隊員が30分くらいAEDで救命活動をしていたが、ダメだったみたいです。近くで知り合いらしい女の子が泣きながら警察官に話をしていました」

 目撃者たちによると、ユナの傍らで警察官と言葉を交わしていたのは、アキ(仮名、10代)だった。

 アキは涙交じりにこう話したという。

 「本気だと思っていなくて……。一緒にここまで来たけど、まさか本当に飛び降りるとは思わなかった」

 ◇繰り返されたオーバードーズ

 国内最大の歓楽街・歌舞伎町。中心部にあるトー横広場は、何年も前から、行き場のない子どもたちの「居場所」になってきた。

 ユナとアキもトー横に出入りする友人同士だった。この日もビルまで連れだった。

 ユナは大量のせき止め薬を飲み、意識が混濁していたとアキは警察官に説明した。薬物の過剰摂取「オーバードーズ(OD)」の状態だったとみられる。

 「そんなことが過去にも何度かあったようです」と、ユナを知る複数人は明かす。

 友人やユナの一家を知る人、警察関係者。探して回ると、彼女を記憶する人たちは、少なくなかった。

 中学生のユナは亡くなる1カ月ほど前から、トー横に入り浸るようになった。

 ◇「どこにでもいる普通の子」

 「フリフリがついたゴスロリ風の格好で、いつもその辺に立っていましたよ」

 カイ(20代、仮名)はそう言って、パチンコ店の看板に指を向けた。店の前や街路樹の下がユナの定位置だったという。

 「トー横に来てまもない子たちが固まる場所です。なじめていないというのかな、ユナも周囲の子と積極的に交わる感じじゃなかった」

 ユナは目立たない存在だったと彼は言う。

 「どこにでもいる普通の子でしたよ。何かに悩んでいるような話も聞いたことがないし」

 ◇友人と「推し」

 物静かで、控えめで、おとなしい。トー横の同世代たちは、口をそろえて印象を語る。それでもユナには数人、仲の良い友人がいた。アキもその一人だった。

 「髪の毛先をオレンジ色にした女の子で、ユナとよく話していました」とカイは言う。

 やはりトー横を居場所にするミナミ(17歳、仮名)は「あの2人は仲良くて、いつも一緒にいた」と話す。

 ユナは、美少年キャラを売りにしたネット配信者を「推し」にしていた。インスタグラムには、横浜まで2人で一緒にそのイベントに出かけた様子が残っている。

 「最高」「愛」

 投稿には、そんな言葉を添えていた。

 ◇メンコンとメン地下

 その一方、周囲はしばしば、ユナの不安定な様子を見聞きしていた。

 大量の睡眠薬を飲んでふらつき、自傷行為を繰り返す。家に帰らず、街で夜を明かす。

 亡くなる1週間ほど前にも、ユナは年下の少女ヒビキ(仮名)とホテルに泊まった。自分が行くメンズコンセプトカフェやメンズ地下アイドルの話をしていたという。

 歌舞伎町では、夜を過ごす少年や少女たちが、連れだって同じホテルに泊まることが常態化している。

 「メンコン」は、男性キャストが女性客を接待するカフェバー。「メン地下」は店でなくライブという違いがあるが、いずれも料金次第で男性との写真撮影やデートができる。ホストクラブの廉価版とも言え、10代に酒を飲ませる違法店は後を絶たない。

 ユナはメンコンやメン地下にはまっていると打ち明け、こんな言葉をかけたという。

 「一緒に死なない?」

 ヒビキは断った。ユナもどこまで本気だったのかは、分からない。

 ◇迎えに来た父親

 亡くなる前日の光景は、何人もが覚えていた。ユナの様子は「普通じゃなかった」とミナミは言う。

 10月12日午後8時ごろ、ユナはトー横広場で意識がもうろうとしていた。市販のせき止め薬を大量に飲んだようで、周囲の誰が話しかけても反応しなかった。

 「何もしゃべれない感じ。だから『もう帰りな』って言った。何に悩んでいたかは分からないけど、ユナちゃんにはいろいろあったんだと思う」

 その時、ユナのもとを訪ねてきた1人の男性がいた。「優しそうで普通の格好をした人だった」とミナミは話す。

 男性は、ユナの父親だった。

 ユナが悩んでいたもの。それは「家族関係」だったと、彼女の一家を知る人は言う。

 「その中で、お父さんは必死に娘に手を差し伸べていました」

 ユナが亡くなった翌週、その父親の姿は歌舞伎町にあった。(敬称略)

【菅健吾、朝比奈由佳、松本ゆう雅、菅野蘭】

毎日新聞

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