「周囲も自分も幸せに」 少年院製作のトートバッグに込められた願い

2026/02/04 15:47 

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 トートバッグに描いたのは、地球を囲んで手をつなぐ人々だ。見た目も、育ちも違う人々がお互いを認め、尊重して生きる。そんな願いが込められている。

 東京・調布で2025年9月に開かれたサッカーJ1のFC東京の試合で、一つのトートバッグが販売された。「かわいい」などと言いながら購入するサッカーファンの姿を、かつて多摩少年院(東京都)にいた少年(19)が見つめていた。バッグは、罪を犯した若者たちの自立支援プログラム「HIGH HOPE」で製作されたものだ。商品が喜ばれているのを見た少年は、「社会が自分たちを受け入れてくれた気がした」とはにかんだ。

 ◇自分を見つめ直す作業

 プログラムは、京都の企業「一」が企画、運営している。中馬一登代表取締役(38)がビジョンに掲げるのは「10代の犯罪を減らし、絶望から希望を生む」だ。これまで加害者となった若者のトラウマをケアしたり、出院後の仕事のサポートをしたりしてきた。

 人材教育会社を経営していた中馬さんは21~22年、京都市から「少年院を出た少年少女たちの就職相談やマナー教育をしてくれないか」と依頼を受けた。そこで約30人から話を聞いてみると、虐待を受けて育ち、大人に向き合ってもらえないまま犯罪に走った子があまりに多いことがわかった。学生時代、東南アジアやインドの孤児院でボランティアをしてきた中馬さん。厳しい環境で育つ少年少女たちの姿を見て「自分が情熱を持って関わりたい」と強く思うようになった。そこで新たに「一」を立ち上げて独立し、より矯正に携わることにした。さらに法務省にも働きかけ、多摩少年院で25年3月から今回のプログラムを始めた。

 プログラムでは、商品を製作して売り出していく方法を考えながら、社会との関わり方を学んでいく。「やりたいことに挑戦しようという精神」を培う場でもある。矯正教育の時間を使い、出院時期などを考慮されて選ばれた少年9人が参加した。商品は製作にかかる時間などからトートバッグに決定。販売に向けてさまざまな活動をする中で、「どうして罪を犯してしまったのか」「どんな自分になりたいのか」と自分を見つめ直す作業も続けられた。

 少年たちが挙げたテーマは「味方がいると伝えられるもの」「妊婦さんを応援しているとわかるもの」などだった。最終的に選ばれた地球のイラストの周りには「見た目も育ちも違うが、互いを理解している。それで十分」と英語で書いた。少年たちは「どうしたら周囲の人も自分も幸せになれるのかと考えられた」「(院から出たら)仕事をして、被害者への弁済をしたい」と話すようになり、人との関わりの大切さを理解していった。

 ◇「世の中を良くする側の人間に」

 多摩少年院には、常時約120人の少年がおり、罪状は窃盗、傷害、詐欺などが多い。11カ月の矯正教育があり、高卒認定を得るための勉強、相手の気持ちを考えながら自分の意見を言う練習、職業訓練など多岐にわたる。しかし、それでも出院後に非行仲間の元へ戻っていってしまうことも少なくないという。

 なぜ非行が繰り返されるのか。見本となる大人や先輩が近くにいないので、価値観を変えられないからではと中馬さんは考える。そこで、希望する少年を「ハイホープハウス」と呼ぶ施設に住ませて雇用し、社会で真面目に働く先輩たちの姿を見せる試みも始めた。「想像以上に純粋な子たちばかり。大人がきちんと関われば、彼らは世の中を良くする側の人間になれる」。中馬さんは、若者たちの将来に大きな期待を寄せている。【山越峰一郎】

毎日新聞

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