<原発・出口なき迷走>「このままだとデフォルト」も 原発再稼働頼み、東電経営に危機感
福島第1原発事故を起こした東京電力が原発頼みの経営から抜け出せない。賠償や廃炉に必要な巨額の費用をまかなうため、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を急ぐが、度重なる不祥事による不信感から地元の同意を得るのは容易ではない。巨額の国費を投じて東電の破綻を回避させた現在の賠償スキームで、福島への責任を果たすことはできるのか。
「このままだとデフォルト(債務不履行)だ」。東電の経営計画の改定が8月以降に延期されることが明らかになった3月上旬、東電幹部は焦りをにじませた。デフォルトは、銀行などから借りた借金を期日通りに返済できない状況で、事実上の経営破綻を意味する。
当初、計画は2024年度内の策定を目指していた。延期の原因は一向に再稼働の兆しが見えない柏崎刈羽原発だ。「柏崎刈羽が見通せないと何も(経営計画を)書けない」と幹部は話す。
除染や中間貯蔵の費用などを含めた原発事故の費用23・4兆円のうち、東電は廃炉と賠償費用の支払い責任を負っている。兆円単位に膨れ上がった費用を調達するため、政府は事故直後に成立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき、機構に交付国債を発行し、機構を通じて東電に資金の貸し付けをする仕組みをつくった。
◇度重なる不祥事、地元に不信感
民間企業には膨大すぎる借金だが、21年に策定した経営再建プラン「総合特別事業計画」では東電は返済のために年5000億円を捻出する方針だ。だが、電力小売りの完全自由化や燃料価格高騰などの影響で事業環境は悪化。18~22年度の返済額は3000億~4000億円台にとどまった。
東電は、柏崎刈羽原発が1基再稼働した場合、約1000億円の収益改善を見込む。このため再稼働に注力するが、同原発6、7号機は原子力規制委員会の審査は通過したものの、社員のID不正使用やテロ対策設備の不備など度重なる不祥事が発覚。地元の新潟県民の東電への不信感は払拭(ふっしょく)されておらず、再稼働に必要な地元合意に至っていない。
さらに、原発の運転に必須のテロ対策施設の完成時期が遅れたことで、「最優先」としてきた7号機は仮に再稼働できたとしても25年10月以降は長期停止が避けられなくなった。再稼働のために投じた安全対策費もかさみ、フリーキャッシュフロー(自由に使える現金収支)も18年度以降、赤字が続く。
「KK(柏崎刈羽原発)が動けば状況は変わる」。東電や政府関係者はこれまで、こう口をそろえてきた。だが、再稼働が見通せない中、銀行側も東電への安易な融資継続に難色を示しているといい、東電の経営を監督する経済産業省は「状況はかなり厳しい」と危機感をあらわにする。
◇福島への責任果たせるか
国と東電は7号機の停止期間に入る前の県議会での再稼働同意を目指し、準備を進める。経産省は24年12月から今年2月にかけて県内28市町村で説明会を実施し、今月14日には資源エネルギー庁の村瀬佳史長官が県議会で再稼働の重要性を訴える予定だ。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長らも招いて安全対策などの評価コメントを引き出すなど、「ラストチャンス」(東電関係者)とされる6月議会に向けて総力を挙げる。
ただ、24年の衆院選では新潟の小選挙区では野党が全勝した。県民の反発が強い再稼働後に政府・与党が7月の参院選に臨めるのかは不透明だ。再稼働の判断を巡り、これまで「県民の信を問う」としてきた花角英世知事の意向もはっきりしない。
原発頼みで他の成長戦略を描けないまま、事故から14年を迎えた。「福島への責任の貫徹のためには持続的に成長し、企業価値を高めなければなりません」。東電ホールディングスの小林喜光会長は11日、東京都千代田区の本社で社員への訓示でこう述べた。責任は貫徹できるのか。東電には厳しい視線が注がれ続けている。【高田奈実】
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