強制収容所からの手紙など遺品のオークション、抗議で中止 ドイツ

2025/11/18 19:07 

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 ドイツ西部ノイスのオークション会社が、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)被害者の遺品などが出品されるオークションを企画し、記憶の継承に取り組む団体やポーランド政府などから激しい抗議を受けた。オークションは中止され、企画した会社は17日、「間違った判断だった」と謝罪した。

 オークションは「恐怖の体制」というタイトルで17日に予定されていた。独メディアによると、632点が出品され、ユダヤ人強制収容所の収容者と親族が交わした手紙や、アウシュビッツ強制収容所の司令官が自身の裁判に備えて書き残したメモ、秘密警察の書類などが含まれていた。

 出品物には個人の名前が判読できるものも多く含まれ、数百ユーロ(数万~10万円)の値段がつけられたものもあった。

 オークション会社のホームページで告知されると、アウシュビッツ強制収容所の記憶の継承などに取り組む「国際アウシュビッツ委員会」は15日、出品物は「個々の人間の迫害と侮辱の歴史」を記した個人的なものであるとして、「恥知らずな企て」と非難した。ドイツの歴史研究機関、フリッツ・バウアー研究所は10日、「公的な記録保管所か記念館に委ねるべきだ」と主張した。

 問題は政治レベルにも及び、ポーランドのシコルスキ外相は16日、ドイツのワーデフール外相に対応を要請。X(ツイッター)で「こうした腹立たしいことは阻止されなければならないという考えで一致した」と表明した。

 ドイツメディアによると、企画したオークション会社は、普段は古い切手やコインを取り扱っているという。中止を表明する前、独紙フランクフルター・アルゲマイネに対し「記憶の保存に貢献する」と意義を説明していた。企画した直接的なきっかけは不明だが、同紙は「恐ろしいものへの興味が要因である可能性は低くない」と指摘した。

 出品物はどこから来たのか。オークション会社は「被害者の子孫から譲り受けたか、民間の研究コレクションに由来し、オープンな市場で正当に入手されたもの」としている。

 一方、美術品の市場に詳しいジャーナリストのシュテファン・コルデホフ氏は、ドイツの公共放送ARDに対し、こうしたナチス時代の書類は「加害者側」が訴追を恐れて隠していたものであるケースが多いと指摘する。当事者が世を去った後、孫世代が価値に気づき、売ろうとした可能性もあるという。【ベルリン五十嵐朋子】

毎日新聞

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