合区選挙区で広がる「諦め」 研究者が鳴らす警鐘と有権者の変化
「合区選挙区」で実施された3回の参院選を経て、有権者に諦めが広がっている――。鳥取・島根と高知・徳島の4県で2016年から設けられた合区選挙区に関して、そんな指摘をする鳥取大の研究者がいる。地域学部の塩沢健一教授(46)で、導入当初からの研究を踏まえ「合区選挙区により、有権者の関心が薄れ、候補者も厳しい活動を強いられる。是正は急務だ」と言う。どういうことなのか、合区4回目の選挙となる投開票(20日)を前に、詳しく聞いた。
◇研究のきっかけは「違和感」
塩沢教授は埼玉県出身。中央大大学院総合政策研究科博士課程を経て、東京農大、慶応大で非常勤講師を務め、14年から鳥取大で政治学を教えている。12年に実施された鳥取市役所の庁舎移転を巡る住民投票の研究に関わったことから、鳥取との縁ができたという。
合区は「1票の格差」解消に向け、15年の公職選挙法改正で導入された。「鳥取市の中心部に住んでいても、選挙をやっているのかどうかわからないくらい静かだった」。合区1回目の16年の選挙で感じた違和感が研究のきっかけだった。
◇「全国で唯一」当選果たせず
これまでに3本の関連論文を発表した。最初の論文はこの16年の参院選について取り上げたもので、「選挙区域の拡大が投票率に及ぼす影響--鳥取・島根両県における『合区選挙』を踏まえて」をテーマに、日本選挙学会の論文誌「選挙研究」第33巻2号(17年)に掲載された。
この選挙では対象4県のうち、島根を除く3県で過去最低の投票率を記録した。論文では、合区で予想される事態として「県代表を国会に送り込む可能性が低下する」と指摘。「鳥取の側から見れば、有権者規模は2倍に、選挙区域は3倍に拡大したことになる」とし、「立候補者は選挙運動における移動面でも大きな制約を抱えながら選挙に臨むことを強いられた」と分析した。
「全国で唯一、鳥取県に地盤を持つ候補者は比例代表も含めて1人も当選を果たせなかった」「合区実施が投票率に与えたマイナスの影響は大きく、とりわけ鳥取県内ではそうした影響は顕著だった」と総括した。
◇影響は「1人区」の他県でも
3本目の論文「参議院における合区の『定着』と投票率・得票率の変動―3度目の『合区選挙』を踏まえた分析をもとに」は24年9月に発行された中央大社会科学研究所年報に収録。合区導入前の10年から導入後の22年までの投票率の推移を分析し、中四国地方の1人区で合区対象とならなかった香川、山口、愛媛などのデータとも比較して、長期的な投票率の低下傾向が続いている傾向を明らかにした。
自民の「特定枠」についても、関心の低下に拍車をかける制度とし、「投票に行かなくても、当選するのならと、棄権する自民支持者も出ている」と指摘。「県代表を選出する機会が減じられ、投票参加意欲も減退させられるような選挙制度であり、対象地域における有権者にとっての不利益は明らか。そうした選挙制度が継続し、関心の低下が定着することは妥当とは言えず、改善に向けた検討が求められる」と結論付けた。
◇根本的な解決策は
塩沢教授は今回の選挙結果についても論文にまとめる予定。10月には東京で開かれる日本政治学会でも発表する。「選挙区は2県分に広がったのに、選挙期間は同じ。必然的に候補と有権者の接触は薄くなり、選挙戦は盛り上がりを欠く。暑いさなか、東西350キロに及ぶ選挙区で、日程を組むのも一苦労。例えば、離島へは行けない、行かない陣営も出てくるのでは」と懸念する。有権者にとっては政策や人となりを知る機会を得られないことになるとして「根本的には都市部への人口集中を止め、地方の人口減少を食い止めることが必要だ」と話した。【山田泰正】
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