職員確保に苦慮の自治体、共同採用も 「市町村の魅力知って」 岩手

2025/06/11 06:15 

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 岩手県沿岸部などの自治体が、人材確保に苦慮している。背景には少子化に加えて、人手不足に伴う学生優位の「売り手市場」の傾向、民間企業の賃上げや内定の早期化などがある。岩手県は公務員を志望する専門学校で、市町村職員による学生への説明会を今年度から始めた。複数の市町村による職員の共同採用にも乗り出した。県は「市町村の魅力を知ってほしい」と学生たちに呼びかけている。【山田英之】

 専門学校での説明会は5月から始めた。盛岡市の盛岡公務員法律専門学校で6月3日に開いた3回目の説明会では、県市町村課の担当者が、就職のタイミングで県内から東京都や仙台市などに人口流出する現状を紹介した。

 民間の調査によると、地元で就職しなかった理由は「希望する就職先が県外にあった」「賃金が県内より高い」「やりたい仕事・業種が県内になかった」が多かった。一方で、県内で働いた場合、家賃・交通費の安さや通勤時間の短さから東京などの大都市に比べて自由に使えるお金や時間が多い利点を県の担当者は強調した。

 県内の大船渡市、久慈市、葛巻町、田野畑村の採用担当者や若手職員は、仕事のやりがい、地元の名所や特産品をPRした。

 2月に発生した山林火災からの復興を目指す大船渡市の古沢紀彦・人事研修係長は「小さな自治体なので若手職員の意見が通りやすい。東日本大震災で全国から来た応援職員と絆ができた。山林火災で再び応援を受けた恩を返していきたい」と語った。休日に釣り、登山、サイクリングを楽しむ職員や自己啓発休暇を取ってJICA(国際協力機構)の派遣でマダガスカルで暮らす職員もいることを伝えた。

 久慈市の前野敦紀・人事係主任は各課の業務内容、採用試験の実施時期や募集人数を説明。勤務時間を1日最大2時間延長することで、土・日曜以外も休める選択的週休3日制を導入したことをアピールした。

 市町村の職員と学生が意見交換する座談会も開かれ、面接試験や小論文の対策、AI(人工知能)の活用状況、初任給や年収、県外出身者の採用数を学生たちが質問していた。

 参加した畠山心彩さん(18)=秋田県仙北市出身=は「行政が開催するクラシックコンサートで、出演者と連絡を取り合う業務もあると聞いて印象的だった」と言う。高橋陽菜さん(19)=同県仙北市出身=は「公務員になったら子育て支援策に力を入れたい」と話した。

 岩手県が実施する職員の共同採用は、人材確保が特に困難な保健師と土木職が対象。大船渡市、宮古市、釜石市などの沿岸地域や二戸市などの県北地域の市町村が参加する。県によると、職員の共同採用は東北初の取り組み。

 県が募集要項の作成、共同開催する1次試験(面接のみ)の会場準備・運営を担当する。1回で2市町村を受験できる。2次試験は各市町村が個別に実施して合否判定する。申し込み締め切りは6月30日。今年度は7月、10月、来年1月の計3回採用試験を予定している。

 大船渡市総務課によると、保健師を募集しても、応募がない年もあるという。高田隼耶・県市町村課主査は「人口減少が進む地域は若い人が少なく、県の内陸部に比べて沿岸地域、県北地域は職員確保が難しい。仕事や地域の魅力を知って県内に残ってもらいたい」と願っている。

毎日新聞

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