日米は開発援助で協力を USAID元長官補と人道支援NPO代表が寄稿
米国の対外援助事業を担った国際開発局(USAID)=トランプ政権が廃止=でアジア担当の長官補を務めたマイケル・シファー氏と、NPO法人ピースウィンズ・アメリカのジェームズ・ギャノン代表が連名で毎日新聞に寄稿した。トランプ米政権が開発援助から撤退を進めているなか、月内開催で調整している日米首脳会談で、開発援助に関する日米の戦略的な協力を進めるよう求めた。
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トランプ米大統領が今月、来日し、新しい首相になるとみられる高市早苗・自民党総裁と会談する際の議題は、関税、防衛費、そして中国の軍事的野心への対応などに集中するだろう。しかし、それと同じくらい重要なテーマは、開発援助における日米協力の再活性化だ。これは特にアジアにおける日米両国の将来にとり、極めて重要だ。
米政府は政府開発援助(ODA)から撤退を進めており、アジアや世界各地に空白が生じている。それを急速に埋めているのが中国だ。米日財団とピースウィンズ・アメリカが発表した報告書でその実態を明らかにした。
ミャンマーでの3月の地震では、中国の救援隊は24時間以内に到着した。米国の災害対応チームが現地入りしたのは1週間以上経過した後だった。中国は世界保健機関(WHO)に5億ドル(約760億円)の拠出を表明しているが、米国は拠出をやめてしまった。
ソロモン諸島では、中国からの融資と警察への支援が行われているが、米政府は同国での民主主義支援プログラムを打ち切ってしまった。
これらは、人道的な懸念というだけではなく、戦略的危機の到来と言っていいが、米国の信頼できる同盟国である日本は、この危機に対応するのに最もいいポジションにいる。
過去8カ月間で、米国は次々と開発援助を打ち切った。米国はかつて、世界のマラリア対策資金の87%、HIV/AIDS支援の96%、緊急災害時の支援の58%、公共部門の統治支援の84%を提供していた。これらの支援は人道的な理由で実施されていたが、同時に、世界の開発援助の基準や規範、これらに関する国際的な環境を形成していたのだ。
例えば、東南アジアのデジタル接続性とサイバーセキュリティーへの米国の資金援助が途切れたとき、この地域では、中国のデジタルインフラが標準となった。
カンボジアで、透明性と腐敗防止に関する支援が終了した際は、中国による透明性の低い開発モデルが台頭した。ベトナムでのパンデミック対策プログラムをやめてしまったことは、米国自身を感染症から守る力が弱まったことを意味する。
日本は、他の支援国が揺らぐ中でも安定した存在であるが、日本だけでは、権威主義的な開発モデルに対抗することはできない。中国の「一帯一路」構想による資金提供は8800億ドル(約130兆円)を超えており、民主主義国家が協力して対抗策を示さなければならない。
トランプ氏の訪日は、両国の国益を推進しつつ、民主的な開発援助が成果を上げることを示す戦略的協力を築く絶好の機会となる。
日本は、米国の力を増幅する独自の力を持っている。世論調査によると、日本は東南アジアやアフリカ諸国において最も信頼される支援国の一つだ。何十年にもわたって透明性が高く質の高い開発援助を行ってきたことにより、築かれた信頼である。
中国の支援計画がしばしば債務不安を引き起こすのに対し、日本のインフラ融資は持続可能性があり、被援助国が主体となりインフラ整備を行うことで知られている。
安全保障や外交と同様に、開発分野でも日米が協力した場合の強みは明らかである。米国は技術革新、迅速な対応能力、支援の規模の大きさという強みがあり、日本は長期的な資金援助、技術力、地域との友好な関係という強みがある。日米が協力する支援モデルはすでに成果を上げている。例えば、ウクライナでの農業復興支援では日米に韓国も加わり、戦時の食料生産を支援してきた。
米国にとって重要なのは、日本主導の事業は米国の国益を拡大するということだ。日本が中国のプロジェクトに代わる「質の高いインフラ」を提唱したことにより、米国の企業と理念にチャンスを生み出した。国際協力機構(JICA)が環境・社会ガバナンス基準を強調することは、世界的な基準を引き上げることにつながっている。
日米同盟は防衛協力の面で深化しており、それは必要かつ歓迎すべきことである。しかし、ただ一つの柱に依拠する同盟関係は続かないかもしれない。太平洋島しょ国や東南アジアの国々は、安全保障協力だけでなく、経済開発や貿易への貢献によって大国が引き続きこの地域に関わるかを判断する。そして、開発、防衛、外交が結びつくことで、前向きな好循環が生まれる。海外の開発援助が持続的な関わり合い、友好関係を築くきっかけとなるのだ。
また、防衛と開発援助の間に不均衡が生じると、懸念すべき事態となる。米国が日本に防衛費の増加を求めると、日本の指導者は財源調整を迫られる。
もしODAがその際の削減対象となり、日本が米国のように開発援助を削減すれば、民主主義陣営の日米で後退することになる。それは、日本が強力な外交手段を失い、真のリーダーシップを示す貴重な機会を失うことを意味する。
米国の開発援助能力を再構築するには、これまでとは異なるアプローチが必要である。現政権が、これまで実施された開発援助計画の説明責任や効率性を批判していることに対しては真摯(しんし)に対応すべきである。再構築される日米パートナーシップは以下の点を強調すべきだ。
・戦略的選択:米国の国益が明確で、日本との協力が最も強力な分野に集中する。例えば、パンデミック対策、デジタルガバナンス、戦略的な地域における気候変動対策、人道支援と災害救援、中国へのサプライチェーン依存の脱却。
・成果重視:日米両国の国益に資することを明確に示す。市場アクセスの確保、民主的ガバナンスの持続、権威主義的影響の除去。
・真のパートナーシップ:多くの文脈で日本のリーダーシップは戦略的に理にかなっている。米国は比較優位のある分野に集中し、日本は長期的資金の提供と(被支援国)地域との信頼関係の構築に努める。
・短期的成果:東南アジアでの共同パンデミック対策、太平洋島しょ国での気候変動対策、日米韓によるデジタルインフラプロジェクトなどは、新しい協力が成果を上げることを示すことが可能な分野だ。
10月の日米首脳会談は、世界の開発援助体制が変化する中で開催される。高市氏とトランプ氏は、戦略的で、説明責任を果たし、民主的で、国益にかなう開発援助協力の新たなビジョンを打ち出す場として活用できる。
トランプ氏にとって、米国のインド太平洋地域への関与を強調するものとなる。「アメリカ・ファースト」はリーダーシップの放棄を意味するのではなく、米国はどこで、どのように米国が関わりを持つかをより戦略的に選択し、価値観を共有し米国の影響力を高める相手を選ぶということを意味する。
高市氏にとっては、米国の再関与は、日本のグローバルなリーダーシップを支えるものとなる。両国にとって、これはインド太平洋の秩序を形成する意味合いがある。インフラの基準、デジタルガバナンスの規範、民主主義の原則などは、自動的に維持されるものではない。パートナー国の支援を得ながら継続的に提唱され続けることで可能となるものだ。
東京での日米首脳会談ですべてが解決されるわけではない。しかし、会談は新たな方向性を示すことが可能だ。両国の強みを生かしながら、戦略的優先分野に集中し、民主主義国家のパートナーシップが優れた成果をもたらすことを示す同盟の姿だ。日本が開発援助の分野でリーダーシップを維持できるかどうかは問題ではない。それは可能だからだ。
問題は、米国がそのリーダーシップの一角を担うかどうかだ。両国、そして地域全体のために、首脳会談から発信される答えは「イエス」であるべきだ。
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