検事総長談話は「名誉回復阻害」 謝罪広告など求め袴田さん側国提訴

2025/09/11 19:25 

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 1966年に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人が殺害された事件で、再審無罪が確定した袴田巌さん(89)側は11日、無罪判決への控訴を断念した際の畝本直美検事総長の談話で名誉を傷つけられたとして、国に550万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こした。「袴田さんを犯人呼ばわりし、名誉回復を阻害した」と主張し、最高検のホームページに謝罪広告を1年間掲載することも求めた。

 検察側は袴田さんに死刑を求刑したが、2024年9月の静岡地裁判決は犯行時の着衣とされた「5点の衣類」は袴田さんのものではなく捏造(ねつぞう)されたと認定。「捜査機関が捏造に及ぶことは現実に想定しうる」と言及し、無罪を言い渡した。

 談話は「犯人であることの立証は可能であり、有罪立証を行うこととした」と再審公判での検察の対応を説明。判決の「捏造」指摘に「強い不満」を表明し「控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容」と批判した。一方で、袴田さんの法的地位が不安定な状況に置かれたことを考慮して控訴しない結論に至ったとし「刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております」と結んだ。

 袴田さん側は訴状で「談話は再審無罪判決を論難しつつ、その大部分で『犯人は袴田である』と繰り返した」と指摘。無罪を言い渡された人を「犯人呼ばわり」することは著しい名誉毀損(きそん)に当たるなどとし「刑事裁判制度を冒とくする行為」だと非難した。検察側が控訴断念に挙げた理由は「『お情けで控訴しない』としか理解することができない」とした。

 提訴後に記者会見した小川秀世弁護団長は「無罪になった人を無罪として扱うのは、法律家として当たり前のこと。怒りを覚える」と述べた。袴田さんの姉秀子さんが「検事総長は職業柄言わざるを得なかったのかと思っている」と語る動画も流された。

 最高検は「訴状が届いておらず、コメントすることはありません」としている。【藤渕志保】

毎日新聞

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