「特別扱いできない」 読書から遠ざかった全盲女性へ 郵便局の提案
地元の郵便局に「特別扱いできない」と言われ、大好きだった読書から半年以上遠ざかった。
東京都江東区に住む全盲の中山利恵子さん(57)は点字図書の郵送貸し出しサービスを長年利用していたが、本の返却に使っていた郵便局が移転してから自力でたどり着けなくなった。
毎日新聞が4月にウェブ記事で報じたところ、中山さんに5月、日本郵便東京支社からある提案が持ちかけられた。
中山さん宅近くの道路に面した郵便局は2024年9月、商業ビルの5階に移った。それまで一人で行き来していたが、ビル内の郵便局までのルートは複雑で、自力で行き来するのは難しかった。
中山さんは図書目録を基に全国から点字図書を取り寄せられる貸し出しサービスを利用していた。
点字図書は1タイトルでも少なくとも3冊になり、長いと10冊に上ることも。1冊でも厚みがあり、返却に郵便ポストを使えない場合が多く、中山さんは郵便局まで持参する必要があった。
9月末、目の見える友人と郵便局まで行き、一人で行けるようになるまでの経過措置として「5階のエレベーター前まで自力で行くので、そこで郵便物を受け取ってもらうか、そこから郵便局まで職員に付き添ってもらうことはできないか」と局長に相談した。
さらに「私が郵便局を訪れる際はあらかじめ連絡する」「郵便局が忙しくない時間帯を選ぶ」と郵便局側の事情も考慮して提案した。しかし、局長は最後まで首を縦に振らず、「特別扱いはできない。付き添いと来てほしい」と告げた。
同居する夫や娘は目が見えるが、それぞれに生活のリズムがあり、毎回付き添ってもらうのは気が引ける。ガイドヘルパーに付き添ってもらう同行援護を頼む手もあるが、1カ月の利用時間には制約がある。
24年4月に改正障害者差別解消法が施行され、民間事業者にも「合理的配慮」が義務化された。
障害者の活動が制限される社会的な障壁がある場合、本人の申し出により過重な負担にならない範囲で個々の要望に応じることが求められる。
事業者と障害者の建設的対話を通じて共に対応策を検討することも促している。
中山さんは「建設的対話をしたつもりだったけれど、あちらは机から一歩も外に出てきてくれないような対応だった」と残念がる。
毎日新聞は今年3月、日本郵便東京支社に質問書を送り、今回の対応が適切だったのか尋ねた。
支社の広報担当は文書で回答を寄せ、「障害者差別解消法の改正、合理的配慮の提供の義務化については、社内向け情報文書などを通じて共有しているが、障害をお持ちのお客様から同法を根拠とした苦情をいただくこともあり、同法に対する理解浸透は十分でなく、全社的な課題と受け止めている。
要望に対し、従前よりも踏み込んだ検討・対応が必要な旨改めて全社的に共有する」とした。その上で、今回の中山さんのケースについて「極力要望に添う形で対応したい」と回答した。
中山さんは4月、この郵便局で日本郵便東京支社の担当者2人、郵便局長と対面した。
郵便局側はこれまでの対応を謝罪した上で、「電話をしてくれたら5階エレベーター前まで迎えに行く」と約束した。
その後、5月になって「社内のマニュアルを確認したところ、身体障害のある人などについては郵便物の集荷に応じるという内容があった」と連絡が入った。
毎日新聞が支社に再び質問したところ、「(郵便物の集荷について)誤った回答をしていた。各郵便局にも正しい取り扱いを周知する。お客さま向けホームページ(HP)にも掲載した」と回答。HPの「よくある質問」に「郵便物の集荷はできますか?」という項目を追加し、「郵便物の集荷サービスのお取り扱いはございません。身体障がいをお持ちの方などが郵便物の集荷を希望される場合は、配達・集荷を担当する郵便局にご相談ください」と載せたという。
ただ、どのようなケースなら集荷に応じるかについては個別事情などを確認した上でその可否を判断し、集荷のタイミングや方法も個別事情などを考慮して決定するとしている。
提案を受けて、中山さんは郵便局側と話し合い、玄関先に専用ボックスを置いて、「集荷あり」のカードを掲げたら配達員が通りかかった際に図書を回収することに決まった。
6月、さっそく10冊の小説1タイトルを取り寄せた。
点字に指で触れながら読書を楽しむ中山さん。今回の自身の経験を踏まえ、「郵便局には郵便物の集荷の対象者や回収についてルールづくりに取り組んでほしい。郵便局まで行くのが難しい人にとって(ボックスによって)社会とつながることができる」と期待を寄せる。【原奈摘】
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